第44話 エンマ
……え?
ちょっと待って。
「え、何で?」
「お前の胸に手を当てて、じっくり考えたら分かるやろ。惚けんやないわ」
般若面の男は水晶玉を後ろに放り出し。
自身の手にする長剣を両手で握る。
すると長剣が巨大化し、両手持ちの大剣に変化した。
……魔剣だ。
名前は分からないけど。
実物は今まで数えるほどしか見たことが無い。
絶対に壊れないということ以外の特性を持つ迷宮武器のひとつ……
そう。
榎本さんの魔槍ファウストと同類の、レアアイテムだ……
「……魔剣ガイアソード……小型化するときは短剣まで。大型化はこの通り。大剣サイズまで可能。……基本取引価格1000万」
するといきなり。
般若面の男が説明してきた。
俺が戸惑うと
「……冥土の土産に教えたったんや。さぁ、お前も抜け。一方的に切り刻むのは好きやない。……やれんわけやないけどな」
般若面の男の声はとことん冷たく、俺と話し合う気は全く無い。
それがどうしようもなく伝わって来る。
「あなた何ですか!? 吉常くんを殺しに来たって!? もしかして職業犯罪者ですか!? 私たち、大したアイテム持って無いですよ!?」
「ど、どういうこと……? そこのあなた落ち着いて……!」
霧生と榎本さんの2人も激しく動揺していた。
そして霧生の声はほぼ悲鳴だった。
激しく手を振りながら、やめてくれと訴える。
霧生も肌で感じたのかもしれない。
……この般若面、とてつもなく強い男だってことに。
「……勘違いすんな。俺は追剝やないで。……エンマの人間や。聞いたことくらいあるやろ?」
「エンマ……」
俺は思わず呟いていた。
この迷宮で、犯罪行為の横行を防ぐために組織されているという治安組織……
やってることは私刑。
迷宮内で犯罪を犯したと判断された人間に私刑を加え、場合によっては命すら取ってしまう。
本来なら法によって裁かれるべきなんだろうけど、その法が機能しないので止むを得ず作られた組織……
確かその構成員は……
全員、上級職……!
そして多分こいつは
「魔道騎士……」
「へぇ、あの頭の足りんカスの息子なのにそれくらい分かるんか。意外やな」
般若面は心底見下した声でそう返した。
上級職とは、第8階層にあるというハイクラスクリスタルに触れることで取得できるクラスの最終形態。
その内容は、取得しているメインとサブのクラスの内容で決まるそうだ。
コイツの取得している上級職は「魔道騎士」
魔道騎士は戦士と魔術師の組み合わせで行きつく上級職だ。
ランク5までの戦士と魔術師のクラス能力を使用でき、さらに専用の固有能力があるらしい。
そんな存在が、俺の命を取りに来た。
どういうことだ……?
全く身に覚えがない!
だから俺は叫んだ。
「俺は何もやってない!」
「嘘を吐くな。……母親そっくりやな。カスの子はカスか」
嫌悪感に満ち溢れた声。
それで俺の頭に心の底から大嫌いなあの汚物の顔が浮かぶ。
あれと一緒にされるなんて……!
「親は関係無いだろ! 決めつけんなぁ!」
そう大声で叫んで、俺は剣を抜く。
それを目にして
「おーし。抜いたな。お前の命はあと数分」
般若面は嫌悪感と加虐心に満たされた声で宣言し。
「……先手は譲ったる。まあ、結果は変わらんけどな!」
挑発するように突き出した左手の指を、俺の招くように動かした。