第41話 銀行口座を開設した
銀行口座を開設した。
これでもう、俺の金は安全だ。
……かなり苦労したよ。
主にキャッシュカードの受け取りに関して。
自分で調べて、捻り出したのが「支店受け取り」なんだよな。
自宅郵送にすると、牝豚が受け取る可能性が大いにあるから、そこは知恵を絞った。
俺の銀行口座開設を知られるわけにはいかないんだ。
ギャーギャー喚くに決まってるからな。
暗証番号教えろだの、キャッシュカードを渡せだの。
無論応じるつもりは全く無いけど、避けたいのは避けたいし。
ウゼエんだよ本当に。
小学校のときは単純暴力やネグレクトで俺に言うことを聞かせようとし。
中学になって体格が俺の方が大きくなると、それは無くなったが……
代わりに「自分は母親だぞ」ってのを盾に出来ると思い込んで、それで俺の暴力を封じようとしてくるようになった。
ぶちのめしたいけど、それをするとあのゴキブリは何をしてくるか分からんところがある。
……なのでこういう手を使わざるを得ない。
ああホント、はやく大人になってあの腐った家を出たいよ……
そんなことを、教室でコッソリキャッシュカードを覗き見て眺めながら考える。
無論自分の席でだ。
他人に見られない様に……
キモイと思われるのは本意ではない。
ニヤケそうになるんだけどさ。
そこに
「吉常くん」
霧生がやって来た。
俺は
「見てくれよ霧生。これが俺のキャッシュカードさ」
小声で、財布の中に忍ばせているキャッシュカードを示して見せた。
霧生は笑顔で
「良かったね! クレカ機能は?」
祝福してくれて、そんな質問。
それに対して俺は
「それは高校生では無理だから。まあ、OKでも迷わず外すけど」
仮に俺がクレカを持てたとしても。
……今、クレカなんて危なくて持てるか!
俺の家には子供の財布から金を抜くゴキブリが居るんだからな。
でけえ、無駄遣いが大好きな、嘘吐きの人間大のゴキブリがな。
そして俺の返答を聞いた霧生は、想いを馳せるような目で
「まぁ、そっちの方が無難だよねぇ。クレカを持ってるお兄ちゃんの話だと、毎月使用金額を見張るのがセットになるんだって」
そう語った。
えっと
俺はそんな霧生の何気ない語りに
「霧生ってお兄さん居るの?」
「うん。自衛官」
……マジか。
なんとなくだけど、幹部自衛官のような気がする。
霧生は語る。
「男の人って自由に道を選べて良いなって思うよ。……自衛官だって命の危険あるのにさ」
んん?
何か、愚痴っぽい口調でそんなことを。
何でそんな話を……?
話が見えず困惑する俺に
「あっ」
霧生は気づいたのか、口に手を当てバツの悪そうな顔をして
「ゴメンゴメン、ちょっと声に出てた。……ところで吉常くん、ギルガメッシュの注意喚起見た?」
そんなことを訊いて来た。
俺は
「……いいや?」
首を左右に振ってそう返し。
霧生はそんな俺に神妙な顔で
「迷宮内で殺人事件が起きたみたいだよ」
そんなことを。
「えっ、マジ?」
慌てて俺はサイトを見た。
すると注意喚起に
『迷宮内で殺人事件が起きました』
その一言が。
ホントだ……
俺の迷宮探索者人生で、4件目の注意喚起だ……
だけどさ
その注意喚起の書き込みは、それ以上の情報が無かったんだよな。
これは担当者のミスなんだろうか?
何階層での出来事かとか、死体の状況はどうなんだとか。
そういう情報が全く書かれていなかったんだ。
……どういうことなんだ?
首をひねる。
変だよな?
だけど
「……怖いね。単独行動は厳禁だよね」
霧生のそんな不安を含んだ声に
「まぁ、4階層で単独行動はそれでなくても危ないし」
俺は心配しないで良い、という意味合いでそう返して。
そこで考えていたことを忘れてしまった。