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えっ、吉常くん大学行かないの?~托卵で生まれた俺、大学に行かずに迷宮探索者で立身出世を目指す~  作者: XX
第5章:私刑集団エンマ

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第39話 権利の上で眠る者は守らない

 そして週末にパーティを組み、迷宮探索を行いながら


「それはいい勉強だったわね」


 この間の銀行口座の一件を榎本さんに話した。

 俺たち2人、揃いも揃って先入観による思い込みで、銀行口座を作れない前提で話を進めようとして

 危うく違法行為の是非の関わるような話をしてしまった。


 そんな俺たちの話を聞いてくれた榎本さんは笑っていた。

 あまりにも笑われるものだから


「口座が作れるなら15才の誕生日になったときに教えて欲しかったです」


 思わずそう愚痴る俺。

 霧生も頷く


「そうですよ。知っておけばできることって増えるはずなのに」


 俺に同意してくれる。


 ……知っておけばこの間、牝豚に金を抜かれることも無かったはずなのに。


 悔しい気持ちだった。

 だけど


「そりゃあ、甘いわね」


 榎本さんはそのとき。

 スッと真顔になって


 教えてくれた。


「……権利の上で眠る者は守らない、って言葉知ってる?」


 えっ、どういうことだ?


 戸惑う俺たちに


「現状ある権利を行使せず、不満を言う人間をわざわざ国が救済には動かないってことよ」


 パッと聞くと無責任な言葉に思えたけど……

 理由を訊くと納得せざるを得なかった。


 それは……国民の無知や怠慢まで考慮に入れていたら、国側の負担があまりにも爆上がりするからだ。


 例えばこの間、俺の金を牝豚が財布から抜いたわけだけど。

 俺は積極的に霧生の金だけはとり返そうと動いた。


 なんかどっかで家族間では金を盗んでも処罰されないって話を聞いた覚えがあるけどさ。

 霧生の金は絶対にその対象じゃ無いだろ。

 だから何が何でも取り返そうと思った。


 これがさ


 俺がもし、霧生の金を取り戻すために何も具体的に動かなかったらどうだろう?

 それで金を抜かれたことに対する不利益について「俺は被害者だ」と陰でブツクサ言うだけだったら?


 仮に俺を助けられるチカラを持った誰かが居たとして。

 その誰かにしてみれば「何で助けてくれない? 無茶言うな」って話だよ。


 そんな人間の不満を、拾い上げるのは難しいし、やってらんないわ。


 ……だからまぁ、納得せざるを得なかった。


「この国の法律ってモノは、怠ける人にはとことん厳しいから。何か問題が起きたら、勝手に色々決めつけて、解決法を調べることを怠っちゃだめよ」


 なんだか榎本さんの言葉が本当に……重かった。

 実感を伴っているって言うか。


 と、そのとき。


 俺たちが歩いていた、石の橋の上に。

 橋の下の海から、水飛沫を上げて5つの人影が飛び出して来る。


 それは人間型のモンスターで……


 一言で言うと半魚人だった。


「マーマンファイターが3体で、マーマンマジシャンが2体よ」


 青い色の半魚人で、手に槍や剣を持っているのがマーマンファイター。

 そして杖を持っている赤い半魚人がマーマンマジシャン。


 マーマンマジシャンは、ランク2までの魔術師の魔法を使いこなす難敵。


 ……4階層からは、魔法を使うモンスターが出て来るんだよね。

 だからスポーツで迷宮探索者をやることが難しくなるんだ。

 事故が否定できなくなるから。


 気軽にレクリエーションで戦える相手じゃ無くなるんだな。


 ……榎本さんをパーティに迎えた俺たちは、現在4階層を攻略していた。

 目下の目標は、ここを先に進むための重要アイテム「ボトルシップ」を手に入れることだ。

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