第38話 自分でやれ!
3人目のメンバーに榎本さんを加えて数日。
「あのさ吉常くん、ちょっといい?」
「何?」
学校で霧生に声を掛けられた。
休み時間だ。
俺の机の傍に近づいて、周囲を見回して
「……恋さん大人だよね?」
耳打ちする感じで俺に。
俺は頷く。
「うん、そうだな」
「だったらさ……」
こそこそと霧生が
銀行口座、余計に1つ作って貰うのどうかな?
お金、ホラ大事だし。
そこに入れておくんだよ。
吉常くんのお金。
……えーと。
結構遠慮がちな霧生の提案。
まず最初に……
「……なんとなくだけど、それは違法じゃ無いのか?」
俺は今まで、銀行口座を作ろうと思ったことが無かった。
なんとなく、そういうのは成人しないとできないのではと思っていたからなんだけど。
……こないだの金を財布から抜かれた件について。
結局あの後。
牝豚がたまたま戻って来たときに、盗んだ金を返せと詰め寄ったっら
「親に向かって盗むとは何よ! 口のきき方を考えなさい!」
……逆ギレかましてきて。
衝動的に殴り殺してやろうかと思ったけど、そこはグッと堪え。
「……大切な友達から預かった2500円が混じってたんだ。せめてそれだけは返せ。それすら嫌がるなら俺にも考えがある」
そう言った。
すると、しぶしぶといった感じで、3000円を差し出して来た。
で、次の日。
なんとか俺は、霧生に2500円を返した。
その件があったからこその、この提案なんだろうけど
「……無論、口座は恋さんのもので、中のお金が吉常くんの……」
「それ、絶対違法だって! それが許されるなら、暴力団が銀行口座作り放題になるだろ」
確か暴力団は銀行口座作れなかったよな?
俺は囁く霧生に対し、思わず声が大きくなる。
暴力団、というワードで不安になったのか。
ちょっと焦って霧生が左右を見回す。
……注目されてる?
まずいな……
「……ちょっと調べてみようか」
俺は場を治めるために、そう霧生に言って。
自分のスマホで、銀行口座開設の手続きについて調べた。
すると
「……え?」
銀行口座というものは……
15才以上であれば、本人だけで口座開設の手続きが可能な場合もある。(それ未満は、親権者の同意が要る)
出来んじゃん……
未成年は勝手に銀行口座作れないだろ、と勝手に思い込んでいた。
駄目だなぁ、俺……
軽く自己嫌悪に陥る。
で。
「……普通に出来るね。恋さんの手を煩わせる必要無いね……」
横から覗き込んでいた霧生も思い込んでたみたいだ。
何なんだ俺たち……。
これ、なんとかしないと不味いだろと思った。
「なぁ吉常」
そして。
その後の休み時間。
今度は男子数人に声を掛けられた。
俺が目を向けると
「お前さぁ、霧生さんと付き合ってんの?」
そんなことを言われた。
……よく2人で迷宮探索について会話してるから、そう思われたのか。
俺は正直に言う。
「別にそうじゃない」
霧生とは仲間であって、別に彼氏彼女の関係じゃない。
これは別に嘘でも何でもない。
だからそう言ったら
「でもよく、すごく仲良さそうに話してんじゃん」
食い下がられる。
だから俺は
「そりゃ一緒に迷宮探索者を目指してるし」
ホントのことを言う。
別に違法なことはしてないし。
校則にも違反していない。
……信じられないかもしれないが、マジで校則にも違反はしてないんだ。
迷宮探索者になることを禁止します、って校則。
どこの学校も定めない。
いや、定められないんだな。
理由は、校則で迷宮探索者になることを邪魔すると、迷宮が対策を打って来る恐れがあるからだ。
だから定められない。危なくて。
生徒指導でも注意されたことはない。
多分、指導要領とかいうやつで「自発的に迷宮探索をしようとする行為は否定してはいけない」なんてあるんじゃないだろうか? 知らんけど。
……話を戻す。
俺のその言葉に
「ええっ!」
男子たちが驚く。
そんなに意外か?
……そりゃそうか。
普通は目指さんもんな。
迷宮探索者なんざ。
ひとしきり驚いた後。
彼らは色めき立ち
「霧生さん、クラス持ちなの?」
「ああそうだな」
……ここまでは言ってもいいだろ。
「ちなみに何?」
「本人に訊けよ」
さすがにそれはプライバシーだろ。
ペラペラ喋れるわけがない。
すると
「……そっか。霧生さん、迷宮探索に興味あるのか。良いなぁ……あの霧生さんと……」
ちっちゃくて、そのくせスタイル良くて……、可愛くて……
なんか、俺の目の前で霧生の容姿を褒め始めた。
それを聞いていると……
なんだか、イライラしてきた。
理由は分からないけど。
なので
「あのさぁ、霧生さんフリーなら俺を紹介して……」
「自分でやれよ。俺は知らん」
続けて来たその要望は拒否した。