第36話 サブクラス
「……死ぬかと思ったよ。本当にありがとう……吉常くん」
「礼は榎本さんに言ってくれ。霧生」
戦いが終わり、霧生が少しおずおずと言った感じでそんなことを言ってくる。
死ぬかと思ったって……
別に騙されたのは俺たち2人の共同責任で、どっちが悪いなんてのはないはずだ。
まるで助けられたのは俺の温情みたいな言い方をされてもなぁ……
コンビなんだから、相手を助けるのは当然だろ。
片方に寄生するような関係はコンビじゃないはずだ。
そんなことより榎本さんだよ。
榎本さんが俺たちに気づいてくれなかったから、多分俺たち死んでたはずだから。
その辺を説明すると、霧生は
「ありがとうございます! 霧生夏海って言います! 助かりました!」
ペコペコ頭を下げる霧生に。
右手を差し出す榎本さん。
榎本さんは
「榎本恋よ。アナタ、吉常くんの彼女か何か?」
そんなことを言う。
笑顔で挨拶……言葉を交わす。
そんな2人に
「残念ながら違います」
俺は割り込む。
ここで霧生に答えさせるのは酷だろ。
俺に気を遣うかもしれないし。
すると
「あら、息の合い具合からそうかと思ったのに」
「そういうの別に良いんで」
恋愛脳って奴には嫌悪感あるからマジやめてくれ。
俺は
「榎本さん、1人なんですか? 今日は自主訓練で3層に?」
榎本さんは4層まで潜ってて、さらに上を目指していた。
3層へはメンバーの都合がつかないけど、どうしても潜りたいときだけにしか来なかったはずだ。
なので、本気で潜ってる場合はこの人をここで見るはずが無いんだよ。
すると
「……パーティがね。解散になったの」
ポツリ、と。
榎本さんは遠い目で語り出した。
「……なるほど。他の人が限界を感じたんですね」
「そうね。第5層がここまで辛いなら、6層行くと多分死ぬことになる、って」
その場で腰を下ろして。
俺たちは榎本さんと話をした。
「だからまぁ、セカンドクリスタルに到達してサブクラスを得たから、もうやめようって」
「セカンドクリスタル……!」
話だけは知ってる。
第5層に存在するという、2つ目のクリスタル。
それに触れると「サブクラス」というものが手に入るらしい。
サブクラスは補助的なクラスで、最初に取得したクラス以外の残り4つから選べるという。
サブクラスに取得したクラスの能力は、メインと比較してランクは落ちるけど……
取得すれば……
戦士でありながら学者の頭脳を持てたり。
魔術師でありながら僧侶の魔法を使えたり。
そういうことができるんだよ。
だからそこまで行ったからもういいや、っての。
分からなくはない。
その力でたまに迷宮でガイドのバイトして。
普段は一般の仕事で稼ぐ生活。
何も問題は無いわけだ。
っていうか
「榎本さん、サブクラスまで行ったんですね!」
俺は少し興奮していた。
恩のある人が前に進んだんだし。
榎本さんは頷いた。
俺は訊ねる。
「何を取得したんです?」
すると彼女は
「……戦士。学者と迷ったんだけど、こっちにしたわ」
少しだけ苦笑の表情を浮かべて
「学者を取ってもどうせ、アタシは就職できないしね」
そんなことを言ったんだ。
榎本さん……
俺はその言葉に、榎本さんが抱えている事情を思い出した。