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第34話 師匠のひと

 榎本さん……


 クラスは召喚士で、俺に迷宮探索者として絶対に守らないといけないことを教えてくれた人。

 そのときはランクは3だった。


 榎本さんは6階層に到達して迷宮1本で食べていくことを夢見て潜ってる人だ。


 他の人が皆「迷宮探索者の8割はバイトしてる。もしくは趣味だ」って、暗に「やめとけ」言ってる中、この人だけは「本気でこの世界でやっていくなら」ということを念頭に入れて指導してくれたんだ。


 個人的な住所は知ってる。

 今年の正月に年賀状を送ったから。


 ……何であのとき、俺を指導してくれたのか。

 あとでポツリと教えてくれたんだけど……


 俺は別に気にしてない。俺だって褒められたもんじゃないしな。


「誰かと思ったら、吉常くんなの!? アンタ、ラドン相手に何やってんのよ!?」


 榎本さんの鋭い声が草原に響く。

 彼女が構えた愛用の武器……

 銀色の槍「魔槍ファウスト」の穂先が、陽光をキラリと反射していた。


 榎本さんはすごく怒っていた。


「ラドンはねぇ! ランク2レベルじゃ6人いないと死人が出るレベルの強いモンスターなのよ!? それをたった2人で狙うなんて無茶よ!」


 最初は俺だと気づかなかったらしいが、俺の顔を見て怒りが燃え上がったらしい。

 さらにヒートアップしそうになったが


「……今はそれどころじゃないわね。話はあとにしましょう」


 榎本さんにそう言われ。

 俺は消え去りたいくらい凹んでしまう。

 恥ずかしい。


 言い訳のように、俺はこう言った。


「……恥ずかしながら、俺、ラドンのことを全く知りませんでした……!」


 俺のそんな無知を晒す告白に対し。

 榎本さんは


「無理もないわ。ラドンが前に現れたのは数年前で、アタシも実際に戦うのは今日が初めてよ」


 そう言いつつファウストを構え、鋭い目でラドンを睨んだ。


「吉常くん」


 そのとき


 語気が切り替わった。

 覚悟の決まった人間のものに。


 そしてこう言った。


「――倒すわよ。今更逃げ切るのは無理。ラドンに一度目を付けられたら、倒すしかないのよ」


 そのとき榎本さんのファウストが、音もなく変化する。

 穂先が長槍から戦斧になった。


 ファウストの一般取引価格は300万円。


 ……使い手の意志で長槍と戦斧に変形する特殊能力を有する。

 ファウストはそんな魔法の槍なんだ。


「ハァァァァァッ!」


 そして榎本さんは叫ぶ。

 その気合でウォードック2頭に腕を喰いつかせているラドンの向う脛に斧の刃を叩き込んだ。


 だけど……


 ラドンは平然としていた。

 脛部分をしこたま、見たところ思い切り打ち据えたのに


「ベンケーも効かないなんて……!」


 榎本さんが苦虫を嚙み潰したような顔で呟く。

 ラドンは平然と立ち、何の表情も浮かべていない。


「榎本さん、ラドンってどんなモンスターなんですか!?」


 俺は剣を構え、訊いた。


 ずっと無言だった霧生も、榎本さんに眼を向ける。


 この場でラドンについて多少なりとも知っているのは榎本さんだけだし。

 榎本さんは説明してくれた。


 ラドンがどういうモンスターなのか。


 この3階層に居るモンスター・ラドンはギリシャ神話に出て来る怪物・邪龍ラドンがモデルなんじゃないかと言われているモンスターだそうだ。


 ギリシャ神話の邪龍ラドンは、百の頭を持ち、火炎を吐くモンスターで。

 弱点は口の中。そこ以外は弱点は存在しない。


 この迷宮のラドンが身体の一部を大顎に変化させて噛みついて来たり、ファイアブレスを吐くのはその辺が元ネタになってるんだろう。

 そういう見立てで。


 百の頭とは、身体のあらゆる部位を頭、つまり大顎に出来るという解釈。

 口の中が弱点ということは、そこ以外は攻撃が通じないという解釈……


 つまり……


「ラドンを倒すには、噛みつき攻撃を喰らわずに口の中に攻撃を叩き込まないといけないのよ……」


 その声には緊張がある。

 あの速い噛みつき攻撃を掻い潜って、口の中を突くなんて……!


 脛を打って激痛で足止めする作戦だったのか、ファウストを斧モードに変えた榎本さんだけど。


 再び槍モードに切り替えて、完全に口の中一本に的を絞った。


 そのとき


 ギャイン!


 榎本さんの召喚獣のウォードック2頭が絶命した。

 両手を大顎に変えたラドンに、あっさりと嚙み殺されて。

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