第31話 リンゴを護りしもの
どうする……?
行くか?
決断のときだと思う。
こういうのは早い者勝ちなんだ。
待ってはくれない。
今、ざっと8500万円って予想を霧生が口にしたけど。
多分税金やら手数料やらで手元に残るお金はきっともっと少ないとは思う。
けど
それでも多分、1000万円くらいは行くだろ。
そしたら……3等分でも300万円以上……?
隣の霧生を見る。
……眼鏡の奥の目がグルグルしている。
霧生もビビってんな。
大金が転がり込むかもしれないってことを目の前にすると。
「どどどど、どうしよう吉常くん? 行くべきかな? 行くべきだよね?」
少し上擦った声で霧生が言う。
それで俺は逆に冷静になった。
金は怖い。
これが原因で、現状が壊れる可能性は大いにある。
だけど……
今行かないと、おそらく二度と巡って来ないチャンスなのは間違いない。
それにさ……
逆にここで保留して、他人に出し抜かれてしまったら。
それが逆に不和の種になるかもしれないじゃないか。
何であのとき行かなかったんだ、って。
行っても、行かなくても、不安がある。
だったら……
「霧生、行こう。行くべきだ」
俺は決断した。
霧生が他人の決断を求めているなら、俺がしてやる。
そういう思いで。
俺の言葉に、霧生が息を呑み、俺の目を見て。
頷いた。
よし……
「ウラキさん、行ってみましょう。……もう遅い可能性もありますが」
俺たちはウラキ氏の提案を受け入れることにした。
「黄金のリンゴの木は、ラドンというこの3階層で最強のモンスターに守られています」
ウラキ氏は俺たちを案内しながら、説明してくれた。
ラドン……?
名前の感じから、俺はドラゴンみたいなモンスターを想像する。
翼があって、ワニみたいな顔で、口から火炎を吐いて……
「怪獣ですか?」
だから俺はそう訊ねる。
するとウラキ氏は顎に手を当て少し唸り
「……まあ、見て貰えば分かると思います。口で説明するとややこしいんで」
草原の奥、岩場を抜けた先に、黄金のリンゴの木があった。
5メートルほどの木に、1個の金色のリンゴが実っていて。
それがキラキラ輝いてた。
これが5キロの黄金の塊で、売却すれば多分1000万以上……!
だが、木の前に立つ「それ」が、俺の息を止めた。
「な、なんだ、あれ……!?」
ラドンとは──ゴスロリ衣装を着た金髪の少女の姿のモンスターだった。
見た目はゴスロリの白人の少女にしか見えない。
だけど……
この3階層に、こんな子がこんな格好で居るわけが無いんだ。
3階層は、クラスを持たず戦闘能力が無い人間にはキツ過ぎる環境なんだから。
だからあれはモンスター。
それが確信できた。
しかも、表情の無い子で。
それが余計にあの子の人外を確信させる。
「あれがラドンです」
ウラキ氏の言葉。
やっぱり。
隣で霧生が唾を呑む音が聞こえる。
「……これまで戦った他のモンスターとは全然違う……!」
「そりゃま、黄金のリンゴの木の番人ですから」
霧生の言葉に、ウラキ氏は余裕のある声でそう返す。
ウラキ氏は続ける。
あのモンスターは黄金のリンゴを取ろうとする人間を殺害するためにあそこにいる。
そのため、他のモンスターのように人間を感知したからと、殺害しようと襲いに行ったりしない。
黄金のリンゴが欲しいのであれば、絶対に倒さないといけないモンスターだ、と。
……なるほど。
緊張で、手が震える。
多分メチャメチャ強いんだろうな……!
「……弱点は?」
霧生が訊ねる。
まぁ、訊けるなら訊いておいた方が良い。
モンスター相手にアナライズするのは、場合によっては効果が無い場合有るし。
それにアナライズを掛けると、それを攻撃と受け取って襲ってくるだろうし。
……さすがに人間を見過ごすとはいっても、攻撃したら襲ってくるはず。
でなければ、ウラキ氏が俺たちにこの話をしたのが意味不明になる。
自分1人でラドンを倒して、黄金のリンゴを独り占めすればいいんだ。
自分しか知らない情報なんだから、誰にも咎められない。
そしたら予想通り
「ええ、ありますよ」
ウラキ氏は頷いた。
弱点……!
胸がドキドキした。
それは一体、何なんだ……?