第30話 黄金のリンゴ
その後も3階層の草原で調子よく稼いだ。
あのトリフィド戦の後、もう1回宝箱が出て、そのときの獲得物で売却金額は合計9000円に到達しそうな勢いで。
分け前の問題で、獲得物を売り払うのもウラキ氏は俺たちに任せてくれた。
……迷宮は、入り口が複数あって、転移ポイントが2つ。
黎明期の政府の対策の結果なんだけど、そう言う構造なんだよね。
で、それはつまり。
俺たちとウラキ氏は、住んでる場所が全然違うんだということなんだ。
聞くとウラキ氏は九州の博多の入り口から来てるそうだ。
……全然遠くだな。
もし外で会うとなると、交通費エグそう……
迷宮探索者は、自分が入って来た入り口からしか出られないんだ。
どの転移ポイント……つまり「闇の穴」に飛び込んでも。
だから俺たちとウラキ氏が同じ穴から帰っても、出てくる外は全然別。
ウラキ氏だけ博多に出るんだよ。
次の日。
「売却金は9600円か……」
1人あたり、3200円。
俺はウラキ氏の分を茶封筒にまとめて、霧生と一緒に3階層エレベーター傍で待っていた。
昨日、何時間くらい戦ったのか分からないけど、稼げたのは小遣い銭。
俺たちなら「焼肉代だ」で大喜びできるけどさ。
社会人のウラキ氏にとってはホントに小遣い銭だろうなぁ……
そんなことを思っていたら
「おはようございます。お待たせしました」
ウラキ氏がやってきてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日も頑張りましょう」
ペコペコ頭を下げる俺たち。
そして
「これ、あなたの昨日の稼ぎの取り分です」
「ありがとうございます。これでちょっといいお酒でも買いますよ」
にこやかにウラキ氏は、俺の差し出した茶封筒を受け取ってくれた。
……すごく嬉しかった。
「社会人の人には、こんなのお小遣いですよね」
霧生がそう、笑顔で言う。
ウラキ氏は
「まぁ、3階層ではこれでも上出来だと思いますよ」
そう微笑み
そこで
「……なんですけど、実は……」
黄金のリンゴってご存知ですか?
スッと真顔になって、ウラキ氏がそう訊いてきた。
……黄金のリンゴ?
俺は首を振る。
もちろん、霧生もだ。
それを見てウラキ氏は真面目な顔で
「……激レアの高額売却のアイテムなんですよ。平たく言いますと、黄金で出来たリンゴなんですけど。文字通り」
説明してくれた。
黄金のリンゴとは……
この3階層に稀に出現する黄金のリンゴの木。
そこにただ1つだけ実る果実のことだ。
果実と言っても黄金なんだけどさ。
問題は……
黄金は比重が重いんで。
リンゴ大の大きさで、重さが5キロもあるらしい。
で。
「金の売却価格は1グラム1万7000円くらいです」
えっと。
ちょっと待って。
すると……
えっと、5000を掛けるんだよね?
すると……
「8500万円くらいですか?」
俺が計算する前に。
霧生が暗算してくれた。
後追い暗算で、俺もそれが正しいことを自覚して。
……足が震えた。
マジか。
で、そんな話をするってことは……
ウラキ氏は続けた。
「実は数日前に、僕は偶然その黄金のリンゴの木を見つけたんですよね……」
神妙な顔で。
なん……だと……?