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第3話 寄生虫と転校生

 家に帰ると、いつものように静まり返ったリビングが俺を迎える。

 テーブルの上には、使い古されたメモ帳に殴り書きされた字と、500円玉。

 それが1枚。


 メモにはこう書かれていた。


『友達に会ってきます。食事は買って食べなさい。 母』


「……またデートかよ。色ボケの牝豚が」


 心の中で吐き捨てる。

 500円玉には目もくれず、冷蔵庫を開ける。


 案の定、中はほとんど空っぽ。

 賞味期限切れの牛乳と、しなびたキャベツが半分。

 ため息をついて、自分の財布を掴んで外へ出た。


 近所のスーパーに向かい、値引きシールの貼られた見切り品を物色する。

 豚肉の切り落とし、ちょっと傷んだピーマン、玉ねぎ。カゴに放り込んで、レジでパンを一斤買う。

 全部で400円ちょっと。


 家に戻り、キッチンで手早く炒めものを作る。

 肉と野菜の匂いが狭いアパートに広がるけど、俺の気分は一向に晴れない。

 パンに炒めものを乗せて、テーブルで黙々と食べる。


 咀嚼する音だけが響く。食べながら、頭の中でぐるぐる考える。


 早くこの家を出たい。


 そして、養育費を払ってくれている父さんに謝りたい。

 あの人は、俺の人生に何の責任もないのに、なぜか今でも金を送り続けてくれる。

 申し訳なくて、胸が潰れそうになる。


 俺は、母親が浮気してできた子供だ。

 母親は妊娠したとき、浮気相手に捨てられた。

 それで俺を托卵で産んだ。


 そのとき父さんにはバレなかったけど、俺が生まれた後にDNA鑑定で発覚。

 当然離婚になった。

 それでも父さんは、戸籍の関係で実子じゃない俺に養育費を払い続けてくれている。


 血縁もないのに。


 一度、誰かにそのことを話したら、「養育費は子供の権利だから」なんて慰めのつもりで言われた。


 ムカついて、思わずキレてしまった。


「権利であれば、道義上貰う必然性のないものを受け取ることが許されると?」


 そんなわけない。

 あの金は、払われなければならない理由なんて無い。


 騙されて育てさせられた子である。

 それだけで十分だ。

 法的にどうであるかなんて関係あるか。


 それだけでも問題なのに。


 あろうことか、あの牝豚はその金を自分のために使ってる。

 お小遣いか自分への給料だと思ってるんだ。


 くだらない化粧品代や、デート代に使われてる。

 許せない。あの牝豚が、父さんの善意を食い物にしてるなんて。

 死ねばいい。


 いつか絶対に思い知らせてやるからな。

 刑務所の中で1人寂しくくたばりやがれ、牝豚。


 憎悪を燃やしながら食事を終える。

 皿を洗い、風呂に入り、寝る準備を整える。


 ベッドに横になりながら、今日のことを思い出す。


 さっきまで所属してた迷宮探索のパーティーで、山田さんたちに大学について言われた。


「大学に行け」「人生を良くするよ」って。


 あの人たちの言葉が、頭の中でリピートする。

 興味がないわけじゃない。

 大学、行きたいよ。


 本当は、勉強だって嫌いじゃない。

 新しいことを学ぶのは、嫌いじゃない。


 でも、俺が大学に行こうとすると、あの牝豚に学費という名目で多額のお小遣いが転がり込むんだよ。


 それでまた、牝豚が喜ぶだけだ。


 ……そんなの、選べるわけないだろ!


 そう呟いて、目を閉じる。

 明日は普通に学校だ。

 そして週末までに臨時の迷宮探索バイトが無いか探して……


 そんなことを考えていると、俺は眠りに落ちていた。




 そして翌朝、普通に高校に登校した。


 教室に入ると、なんかざわざわしてる。

 どうやら転校生が来るらしい。


「女だって話だぞ」


「結構可愛かったって」


 ……ふぅん。

 俺はあまり興味ないので、そんな男子の言葉を聞き流していた。


 すると本鈴が鳴り、担任が入って来た。

 ホームルームだ。


「ハイ皆席についてー」


 担任の言葉に従い、教室が静まり返っていく。

 そして


「それでは今日は、新しいクラスメイトを紹介します。霧生きりゅう夏海なつみさん、入って来て」


 ドアが開き、背の低い女の子が入ってきた。

 おさげに眼鏡、ちょっと幼い顔立ちだけど、妙に整ってる。


 そして制服の上からでも分かる、かなり立派な胸。

 クラス中の男子が一瞬で色めき立つのが分かった。


 俺は冷めた目で、壇上に立つその子を見つめた。


 彼女は


「霧生夏海といいます! よろしくお願いします!」


 そう、元気な声で自己紹介した。

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― 新着の感想 ―
社会構造やクラスの仕組みがとてもよく練られていて、設定に強い説得力を感じました。主人公の抱える感情にも深く共感できます。まだ3話ですが、これからゆっくり読み進めさせていただきます。
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