第21話 第3階層は
俺たちパーティーはメタルタイガー討伐を達成した。
これで霧生もランク2になり、あとエレベーター使用の権利を得たんだ。
「ねぇ吉常くん、3階って草原って話だよね?」
「ああ」
学校で。
霧生が昼休みに学食で話し掛けて来た。
話題は迷宮の話だ。
俺はうどんを食べていて、霧生は向かいの席でカレーライスを食べていた。
カレーをスプーンで食べながら訊いてくる。
「……前から思ってたんだけど、迷宮内に草原ってどういうこと?」
……迷宮マニアの間でも、その辺伝わって無いのか。
結構いると思うんだけどなぁ……
スポーツ迷宮探索者。
週末に仲間でパーティー組んで、モンスターを倒して日々のストレスを解消してる人たち。
……まぁ、迷宮は日本中に入り口があるわけだから、見える人数が多くても、日本全体で考えたら一握りしかいないのかもしれないけどさ。
「……外なんだ」
「へ? 外って」
「3階層と称される場所は、どう見ても屋外なんだよ」
そう。
3階層は草原で。
空がある。
迷宮というのは無理がある環境。
無論、階段で2階層から3階層に行くことはできないし、4階層への階段も無い。
移動はエレベーターのみ。
ちなみに4階層は水の世界らしい。
まだ行ったことは無いんだけどな。
「ふぅん……外か」
ということは……
霧生は冷静に思案して
「不意打ちの危険性は低いってことなの?」
「ん、まぁそうだな。1~2階層よりは遮蔽物は少ないのは確かだから」
その分析は正しいんじゃないかな。
俺はそうコメントした。
「あと、大群で襲ってくるモンスターも多そう」
「だな」
2階層の厄介者ダンジョンウルフは多くて9匹くらいで。
加えて、石の迷宮の道幅で、狭かったから。
大群の恐ろしさが限定的だったけど。
3階層ではそれ以上の軍団が普通に来るんだよな。
霧生が予想している通りに。
だけど
「でも遮蔽物が無いってことはさ」
そこでそう言って霧生はニヤリと笑う。
「ランク2の魔法の、ファイアーボールが使い放題だね!」
また週末がやって来た。
2階の、階段から程ない場所にあるエレベーターホール。
そこのエレベーターの扉を前にして。
「3階、どんなとこかな……屋内のはずなのに空のある草原……感覚として想像が追い付かない感じなんだよね」
霧生が、眼鏡のポジションを直しながらそう呟く。
まぁ、気持ちは分かる。
俺も最初に3階層の内容を聞いたときは違和感あったしな。
目の前のエレベーターの扉の上に、9つのランプ。
それが点灯する位置が、1番左に近づいてくる。
さっき呼び出しボタンを押したんだ。
2階層に、9つのランプ。
……これが、10層構造になってると言われてる根拠なんだよな。
やがてチーンという音がして、扉が開く。
俺たちは中に入った。
中は結構広い。
5メートル四方くらいある。
そして中に入った後に、箱の出入り口の左右に9つずつ縦に並んでる丸いボタン。
それの片方の、下から2番目のボタンを俺は押した。
すると
「やっぱ無理かぁ」
そんな声がして。
見ると隣で霧生がカチカチと。
……1番上のボタンを押していた。
推定10層のボタン……
「無理だよそりゃ。そこを押して10層に行けるようにするには、9層で黄金の騎士を倒さないと」
分かってて、つい試してしまった霧生を俺は微笑ましいと思い、思わず笑みを漏らしつつそう言った。
扉が閉まり、ゴンゴンと音がする。
構造上、籠が上下してるわけないんだけど。
どういう仕組みになってるのかね……?
そしてまた「チーン」と音がして。
扉が開いた。
……目の前には草原が広がっていた。