第20話 GJだ、霧生!
俺は剣を構え、爪の攻撃を横にステップで回避。
続けて牙が迫るが、身を捻って躱す。
反撃で鎧のない前足や腹を狙うが、上手く狙えない。
「くそ、強いな……!」
防御一辺倒になる。
メタルタイガーの動きが速すぎて、俺は防御と回避に追われる。
霧生がエネルギーバレットを撃つ隙も無いらしい。
霧生の焦り顔。
やっぱり、2人じゃ無理か?
ホブゴブリン、ダンジョンウルフとは比べもんにならんよな。
4人パーティーでもキツかったのに。
俺と霧生、戦力足りないか──?
その瞬間だった。
「エネルギーバレット!」
霧生のシャウトが部屋に響く。
俺は一瞬、目をやる。
だが、霧生から魔法は飛んでこない。
メタルタイガーが、ちらりと霧生に目を向ける。
俺への攻撃を続けながら、明らかに霧生の動きを警戒してる。
……待て。
こいつ、魔法の存在を知ってる?
所詮獣だろと思って、まるで気にしていなかった。
こいつはそういう奴なのか?
グオオオ!
そしてメタルタイガーが再び俺に襲い掛かる。
爪が空を切り、俺は後ろに飛び退く。
その瞬間、霧生の声が鋭く響いた。
「吉常君! 息止めて!」
「……!?」
良く分からなかった。
けど、俺は理由を訊かずに従った。
「エネルギーバレット!」
俺は言われた通り息を止めたまま、戦いを継続した。
けど
飛んできたのは青白いエネルギー弾じゃなかった。
薄紫の霧──スリープミストだったんだ。
メタルタイガーが霧を吸い込み、動きが明らかに鈍る。
意識が朦朧としてるように見える。
――霧生の偽装だ。
魔法のシャウトは別に呪文じゃ無い。
魔法の射程の問題で、声と視線が発動箇所に届いている必要があるから発するだけで
大体いつも魔法名なのは、魔法を使う意志に雑念が混じらないようにするために過ぎない。
だから……
エネルギーバレットと叫んで、実際はスリープミスト。
これはアリなんだよね。
そのせいか……
不意打ちでメタルタイガーの警戒をすり抜けたようだ。
「GJだ、霧生!」
俺は隙を逃さず、剣を握り直し突進。
メタルタイガーの首──鎧のない急所に、渾身の力を込めて刃を突き刺した。
ガアアアアッ!
その一撃でメタルタイガーが悲鳴をあげ、塵になって消滅する。
……勝てた!
「やった……!」
俺は息を切らし、剣を鞘に納めた。
俺と霧生だけで、2階層の番人を倒したぞ……!?
「やったね! 吉常君、勝てたよ!」
霧生が駆け寄って来て、満面の笑みでガッツポーズ。
「今、実感した! 私ランク2の魔術師になった!」
……俺もそうだった。
番人を倒した瞬間、ランクが上がってスキル<挑発>の習得を実感したんだ。
霧生もそうなった。
ランク2の魔法を得ると、魔術師は一気に強くなるんだよな。
まぁ、それよりも
「霧生のあの偽装魔法、会心の一撃だったと思う」
俺のそんな賞賛に
「ほめ過ぎだよ」
霧生はなんだか嬉しそうで。
「なんだかメタルタイガー、魔法について理解してそうな様子だなって思ったから試したの!」
そう霧生が照れ笑いしながら、眼鏡をクイッと上げる。
「……観察力パネェな」
俺は苦笑し、肩の力を抜く。
さて……
これで霧生もランク2になった。
そしてこれで俺たちは2人とも、3階層に足を踏み入れる資格を得たんだ。
ここから先。
モンスターはもっと強くなるわけで。
それで、俺たちはたった2人でやっていけるのか……?