第2話 迷宮のはじまり
最初は、東京新宿歌舞伎町。
その街の片隅にひっそりと出現したらしい。
壁に開いた奥の見えない闇の穴。
通報があってすぐに警察が来て、警察官が入ったらしい。
そしてその警察官たちは1時間くらい後に
そこから出て来て
「中がRPGの地下迷宮みたいになってる」
そう報告した。
その後、国が調査隊を選抜し、本格探索を開始。
そして中で
「中で怪物に遭遇した。まるでRPGのモンスターのような奴だ」
「銃火器が使えない。故障していないはずなのに」
「モンスターを排除すると、宝箱が出現した。開いてみると正体不明の物品が入ってた」
「階段とエレベーターがあった。エレベーターを調べた結果、この迷宮は10層構造の可能性が高い」
「宝箱には罠がある場合がある」
……そんなことが色々分かり。
そして
「2階奥で、赤い水晶の塊を見つけた。触れたときクラスという力を与えられてしまった」
……この一番大きな発見があったんだ。
クラスというのは、所謂超能力だな。
2階にあるクリスタルに直接触れた場合に1人1つ受け取れる。
全部で5つあるんだ。
戦士、魔術師、僧侶、召喚士、学者。
このうち、戦士と学者がヤバかった。
戦士は取得者の身体能力を大幅に上昇させるクラスで。
学者は脳機能を大きく上昇させるクラス。
戦士を取得すると、女でもベンチプレスを3桁上げられるようになるし。
学者を取得すると、誰でもTOEICで高得点を取れて、六法全書も丸暗記できるようになってしまう。
……他3つは、所謂「魔法」を使うクラスなんだけどさ。
ぶっちゃけ要らんしな。日本の日常生活で。
でもさ……
人間の基本スペックを上昇させる「戦士」と「学者」は違うんだよ……
実生活で役に立つし「特定分野では持ってないとお話にならない」という状況を作り出した。
例えば今じゃ、自衛隊員はほぼ戦士を取得しているそうだし、企業研究員も学者を持ってるのが普通らしい。
業務の一環で取りに行くんだそうだ。
結果、当時何が起きたかというと……
自分の性能を上昇させて、人生一発逆転を狙う人間がダンジョンに入る事例が相次いだ。
すると当然中で死ぬ奴が沢山出てくる。
そうならないように、政府が入り口に見張りを置く。
すると……
別の場所に、また別の入り口が湧いたんだ。
そこに入ってみると同じところに繋がる。
それを封鎖するとまた別のところに入り口が湧いて。
いたちごっこ。
なのでこれはもう、入り口を外から封鎖するのは無理だと悟り。
ならばと、内部に見張りを置こうとしたら……
今度は内部の入り口の方が増えた。
ようは、出入り口が2つある迷宮に構造が変化したんだ。
……そこで当時の政府は諦めた。
これは迷宮の方が、自由に挑戦者が足を踏み入れられる状況を維持したがっている、と。
何か対策を打つと、迷宮の方も対策を打って来るんだ。
やっても無駄だし、余計犠牲者が増えてもっと大変なことになるかもしれないし。
……まぁ、そんな巷で囁かれている過去の話はここまでにしておこう。
――俺たちパーティーは迷宮を脱出し、迷宮取得物を政府直営の迷宮探索者の店で売り払う。
そして所持している装備を預け、逆に預かって貰っていたものを受け取って外に出て
「じゃあ、金曜晩から今日までの3日間、病欠してたメンバーの代役ご苦労さんです」
これ、報酬だから。
そう言ってパーティーリーダーから茶封筒を貰った。
中に入っていたのは2万円。
……まあ、こんなもんかな。
「ありがとうございます」
そう礼を言って俺は鞄に茶封筒を突っ込んで。
背を向けて、家に向かって歩き出した。