第19話 VSメタルタイガー
迷宮2階層の奥、番人の部屋の前に俺たちは立った。
冷たい石壁に囲まれた通路の先には、門のような入り口がある。
入り口部分に空間が歪むような、薄暗い光が揺らめいていて、中は見えない。
この迷宮の出入り口と同じで、入り込むと転移する感じだ。
メタルタイガーが待つ部屋に。
霧生のリュックには、宝箱から得た回復ポーション3つ。
ヒーラーのいない俺たちには、これが命綱だ。
俺は腰の剣の柄を握り、隣の霧生に目をやる。
「準備いいか、霧生?」
霧生は神妙な表情で頷く。
「覚悟は決まってるよ……行こう!」
「OK」
霧生の覚悟の決まり具合に俺は微笑み。
最終確認に入る。
「最後にもう1回、ここのルールを言うぞ」
この番人部屋にはいくつかルールがある。
事前に説明してるけど、念のために。
「この部屋は、1度に6人まで入れる。入ったら自由に出られるが、6人入ったら全員が出るか死ぬまで再入室はできない仕様」
「だけど……これは6人じゃなくて本当は6回が正解なんだよ。つまりその6回の中に同一人物が含まれてても問題無いんだ」
つまり、今の俺たちなら……
俺が絶対に退室しないのを前提するなら、霧生は4回まで出口から外に逃げられる。
そして逃げた後、戻って来れるんだ。
「それはもう覚えてるから」
霧生が真面目に頷く。
「一応聞いてくれ。つまり後衛がピンチなら、外へ一時避難って手もある。だが、番人を倒したとき部屋にいないと、実績がつかない。ランクが上がらないし、エレベーターも解禁されない。あくまで最終手段だから」
「うん、分かってるから」
霧生の返事を聞いて俺も頷く。
「OKだ。で、作戦だけど……」
俺は剣を抜いて、門を見つめる。
「霧生は、入り口付近で動かず待機。メタルタイガーが俺から離れたら、顔面か腹を狙ってエネルギーバレットを頼む」
「了解!」
霧生の気合いを確認し。
最後の確認を全て終え、俺たちは空間の歪んだ入り口に踏み込んだ。
視界が一瞬揺れ、10メートル四方の石造りの部屋に転移。
その部屋の中央に、2メートルほどの甲冑で武装した猛獣が寝そべっていた。
──メタルタイガー。
銀色の金属鎧が、頭部、背中、脇腹を覆う。まるで獣でありながら騎士の位にいるみたいに見える虎だ。
獣の甲冑が、薄暗い部屋の光を反射してる。
メタルタイガーがこちらに気づき
グオオオーッ!
立ち上がって、大きく吠える。
その目が、明らかに霧生を狙っている。
……当然だな。
獣なら弱いヤツから狙うだろ。
そして次の瞬間、雷みたいなスピードで霧生目がけて突進してくる。
そのとき俺は
「こっちだ!」
俺は戦士のランク2スキルを発動させた。
<挑発>
挑発は自分の声を聞いた敵の注意を強制的に発動者に引き寄せる技。
メタルタイガーの標的が俺に切り替わり、突進の矛先が俺に向く。
「よし、こい!」
俺は剣を正眼に構え、待ち受けた。