第189話 2年後……
高校卒業後2年。
20才になった俺は、アドベンチャラーズの倉庫を掃除していた。
ここの施設、清掃も職員の仕事なんだよね。
置いてるアイテムに特殊なものが多いし。
武器も普通にあるから、盗難がメチャメチャ警戒されてるんだよな。
掃除は箒で行う。
コンクリート打ちっ放しのこの倉庫。
広さ二十畳はゆうにあるし、棚が多いので掃除は楽では無い。
……ここ『アドベンチャラーズ新宿店』は、日本で一番大きな店舗だ。
だからまあ、迷宮探索者の装備を預かる倉庫のスペースも、必然的に大きくなる。
だからしょうがない。
まぁ、俺がここで雇われている理由は、掃除夫をするためじゃないんだけどさ。
だからといって「なーんもしないで規定時間部屋で待機」ってのは嫌なんだ。
辛いから。
俺は今、迷宮探索者をメインで頑張るのを止めて、夫婦2人でアドベンチャラーズに就職して働いてるんだよね。
パーティメンバー全員が、普通に暮らす分には一生分が十分あるお金を迷宮第8階層で稼ぎ倒したので。
あとはそれぞれ、思う通りに生きて行こうって話になり。
解散。
俺たちは
アドベンチャラーズで普通に仕事して残りの一生を送ろう。
そう、夫婦で話し合って決めたんだ。
で、2人で求人に応募したら即採用された。
アドベンチャラーズの職員は、危険な事態に直面する可能性があり得るから、上級職持ちが職員になるのは向こうも嬉しいんだ。
採用面接のとき
「こっちからお願いしたいくらいです。求人応募ありがとうございます」
そう、部長職の人に言われたよ。
「頼朋さん、ちょっと来て下さい」
……そんなことを思い返しつつ、オートモードで掃き掃除をしていたら。
倉庫の入り口から、職員の女の子に呼ばれた。
視線を向けるとちょっと顰め面で
……何か面倒事が起きたのか。
伝わって来る感情もそんな感じだし。
それを悟り
「分かりました。すぐに行きます」
箒とちりとりを壁際に寄せ。
俺はすぐさま職員の女の子についていった。
「あのなぁ、これは全快薬なんだよ!」
「そうは言われましても、迷宮産のモノは壊れないので」
女の子に連れられて、現場……
新宿店の受付カウンターに向かうと。
俺同様、職員の制服……白と黒基調の、公務員に相応しいイメージ……その清潔感があって地味な制服に身を包んだ俺の奥さんが、荒くれのオッサンに立ち向かっていた。
ここに来るまでに女の子に聞いた話では
全快薬を手に入れたから買い取ってくれ。
そんなことを言う汚い身なりのオッサンがやってきて。
何か得体の知れないガラス瓶に液体を詰めたものを3つ、持ち込んで来た。
実物の全快薬を見たことのある俺の奥さんは
この汚っさん、間違いなく嘘を吐いているな。
そう思っただろうけど。
迷宮アイテムの買取手順通りにそのガラス瓶をハンマーで叩いたら
当然だけど木っ端微塵になり、中身が飛び散って水浸しに。
それを受けてオッサン
「全快薬が駄目になったじゃあねえか! 弁償しろ! 3000万円寄越せ!」
そう言って喚きだした。
「だーかーら、何度も申し上げている通り、迷宮産のモノは壊れないんです」
「中身を別の瓶に移し替えたんだ! 元の瓶が駄目になったから!」
……全く話を聞いてないなこのオッサン。
迷宮産の瓶は壊れないんだから、移し替えなければいけない事態がまず起きないだろ。
どんだけ頭が悪いんだ。
俺の奥さんはイライラしてるだろうに、極めて冷静に
眼鏡のつるを触って位置を直しつつ
「……これ以上騒ぐと警察呼びますよ?」
堂々とそう言い返す。
……昔から土壇場の度胸はあったけどさ。
今は震えすらしない。
さすがというか。
……この眼鏡で小柄、髪型おさげな美人女性が、俺の奥さんの頼朋夏海。
高校を卒業した次の日に結婚したんだよ。
……奥さん、お義母さんとそういう話をしてたから。
それに乗っかった形だ。
それに関して俺は、全く後悔していない。
「やってみろ! お前もただじゃおかねえからな!」
オッサンは大声で、なんとか奥さんを怯えさせようと凄んでる。
勢いで金を巻き上げようというんだな。
そうはいくかよ。
……それに
「ハイハイ。ここからは俺が引き受けます」
若干、俺もイライラしていた。
俺の奥さんに不愉快な真似をしてくれやがって。
そんなことを思いつつ、俺は作り笑顔で
奥さんを自分の背後に庇う形で、この場を引き受けた。




