第188話 なぁ吉常、志望校どうすんの?
高校3年生の後半に差し掛かり。
学校で。
「なぁ吉常、志望校どうすんの?」
「えっ、俺は大学行かないけど?」
そんな質問をクラスのやつにされたので。
俺はそう返す。
俺の言葉にそのクラスメイトは
「まじかー。迷宮探索者ってそこまで儲かるのかよ」
そんなことをひっくり返ったような姿勢で呟く。
俺は
「まあ、それだけじゃないけどな」
……そう返した。
俺が大学に行かないのは、現役で受験することに負い目があるからだけど。
敢えて言うようなことじゃないから言わない。
クラスメイトはそんな俺に
「でも勿体なくね? 学内の順位1桁なのに。奨学金だって狙えるレベル」
こう訊いてくる。
……そういうのが負い目なんだよ。
俺の実力でそうなったわけじゃないし。
でも、その辺を正直に言うと嫌味に聞こえそうだから
「色々事情があるんだよ。悪いな」
暗に「それ以上は訊くの禁止」と伝える。
するとクラスメイトは
「俺も目指そうかなー? 迷宮探索者」
ボソリと。
冗談めいた言い方でそう言って来た。
俺はその言葉に
「……最下層の第8階層に到達できてる人間は、日本全体で100人居ないんだ。何が何でもそこに辿り着く覚悟が無いならすべきじゃない」
一応、人生を賭けて挑んだ身として。
そこは真面目に返した。
……今現在、迷宮最下層は第8階層ってことになっていた。
榎本さんが昔の仲間に
迷宮最下層の話を振ってみたところ
「迷宮の最下層は第8階層だろ。何を当たり前のことを言ってんだ?」
……そういう言葉が返って来たらしい。
皆の間で、それが常識になってる。
誰も、かつての迷宮に第9階層と第10階層があったことを記憶していない。
……役目が済んだから、不要な存在が削除されたのか。
神様は「世界はもう自分の手を離れる」って言ってたけど。
手放す前に今後存在する意味が無い部分を消していったんだな。多分。
迷宮自体を消さなかったのは、今の社会が迷宮があるのが当たり前の世の中になってるからか。
今更若返り薬だとか、全快薬だとか、クラス能力が無い世界には戻れないだろうということかな。
まぁぶっちゃけ、俺はありがたかったけど。
迷宮が無くなると、俺は自分の能力を最大限活かして仕事できる場所が無くなるし。
色々困る。
俺だって人生賭けて挑んだんだ。
俺から迷宮を取り上げないでくれ。
……そんなことを考えている俺に
「なぁ、最初のクラス能力を吉常はどうやって取ったの?」
クラスメイトはそんなことを訊ねて来る。
俺は
「……必死こいて50万円貯めて、それで信用できる迷宮探索者のパーティに金を差し出して連れてってもらった。お金があるならそういう人を紹介するけど?」
返答として嘘八百をしれっと返した。
……ホントはイチバチで迷宮探索者に頼み込んで、一時的に奴隷同然の下働きをしたなんて言えるかよ。
真似されたら困る。
それで何かあったら責任を取れんだろ。
……そうこうしているうちに。
高校生活の最後の半年は瞬く間に過ぎ。
俺は……いや俺と夏海は。
高校を卒業した。
卒業式の日は、父さんが来てくれて。
俺は生まれて初めて、親に自分の晴れ姿を見て貰えたんだ。
そしてその日から
2年の時間が過ぎた……




