第183話 迷宮を何故創ったか?
「何で迷宮を創ったか? それを訊きたいの?」
俺は「だったらこの願いはナシでいい?」と言われる可能性を考え、その場合は引っ込めようと思った。
けど
「まぁ、それはね……占いみたいなもんかなぁ?」
少し考えるそぶりを見せつつ、神様の言葉。
占い?
神様が?
良く分からない。
神様って全知全能の存在なんじゃ無いのか?
困惑しつつその部分を訊ねようとすると
「僕らは別に、全知全能の存在じゃ無いんだよ。ただ、世界を創る役目を与えられているだけで」
先回りするように、神様はそんなことを言った。
世界を……創る……?
困惑を深める俺たちに
神様は
「僕らは世界を創るのが仕事でね。工程を完了して完成した世界を手放して送り出す前に最後の検品をするんだな」
なんてことのないことを言うように、そんな途方もない話をする。
検品……?
チェックってことだよな?
何をチェックするんだろうか……?
そう思いつつ続きを待つ。
神様は言った。
「その世界の住人の深層心理に『この世界は存在するべきか?』と訊く」
えっ?
それを訊いて……?
そこから続く言葉は
「そして1つでも『こんな世界滅ぶべきだ』という声があれば、僕が自分の目でその世界を見極める作業に入るんだよ」
まさか、と思う。
嫌な予感。
たった1つでも世界滅亡を望む意志があったとしたら、神様は世界を確認する……
そして……?
「そこで僕が、こりゃ失敗したなと思った場合は、零から創り直す。そういう作業工程になってるんだよ」
……ちょっと待て。
たった1人でも破滅主義者が居たら、神様は世界を確認し、そこで失敗作だと判断したら世界を創り直す。
ようは、滅ぼすってことか……?
それは……
メチャクチャじゃないですか!
どんな状況でも不満を持つ奴は出て来るに決まってるのに!
そう言おうとしたけれど
神様は先回りして
「……数が少ない方が間違ってるっていう根拠は? 無いでしょ? 君だってそれは分かってるんじゃ無いかな?」
そんなことを言ってきて。
……俺はそれにぐうの音も出なかった。
俺自身、世間の常識から外れたことをやってきたし、主張もした。
迷宮探索者以外俺の道は無いとか。
男親が養育費を我が子でも無い子に強制的に払わされるのはおかしいとか。
自分の譲れない拘りで、大切な彼女に危ない橋を渡らせたとか。
もし統計を取ったら俺の決断、考えの方が間違ってるって結果が出るかもしれない。
だけど、俺はだからと言って「俺が間違ってました」とは言えない。
俺には俺の想いがあるし、譲れないものもあるんだ。
……確かに。
数の多さと物事の正しさは別問題だ。
そう思い、黙る俺に神様は続ける。
「で、君たちの場合は、良く分かんなかったんだよねぇ」
……良く分からない……?
それは一体どういうこと……?
神様の言葉に疑問符を浮かべる俺たちに。
神様は言った。
「……君たちはさ、とてつもなく気高い行為をする傍ら、同じ手でとてつもなく邪悪な振る舞いにも及ぶよね?」
例えば横暴に振る舞うならず者を我が身も顧みずに正義感で成敗しつつ、同じ手で自分を侮辱した人間を抹殺するとか。
弱者から全てを奪った過去がある癖に、全てを忘れて円満家庭を築き、周囲への博愛精神に満ち、感謝され続ける人生を送るとか。
……少年時代に自分の基準で悪と断じた老夫婦を、孫と一緒に皆殺しにしておいて、長じてから教育者になって生徒に慕われてる先生やってる男。
そんな感じのがかなりいて。
分かんなくなったんだよ。
君らが邪悪な種族なのか、素晴らしい種族なのか。
……神様の言葉に。
榎本さんが俯く。
何か思うところがあるのかもしれない。
……今、神様が挙げた例は極端な例だけど。
そういうことは普通にある気がする。
真面目にやってても役に立たない人間を「無能」と言って追い出すとかさ。
問題を起こす厄介な人間を一方的に爪弾きにして、孤立させるとかさ。
「だから」
神様はそこで言葉を切り。
力を込めて
こう続けた。
「……試すことにしたんだよ。迷宮を創って、ここに最初に踏み込んで来た人間たちが僕にとって不愉快な存在であれば、そのときは世界を創り直そうかなって」




