第182話 謎の少年の正体は
絶句する俺たちの前に優雅に舞い降りて。
謎の金髪少年は言う。
「ご褒美に、どんな願いも1つだけ叶えてあげるよ」
少年は笑顔だった。
無邪気で……誰にでも愛されてしまいそうな。
ひたすら明るいオーラ。
どんな願いも……?
だったら
「俺たちが今、直面している問題を完全解決してくれ!」
即座に言った。
ここに来れば全部解決する可能性があるって、こういうことなのか!
それを理解したら、迷わずに言っていた。
そのために来たんだし。
俺の言葉に謎の少年は
「ん、分かったよ」
笑顔で了承。
えっ、これで通じるの?
細部を訊いてくると思ったのに。
俺はその様子にふと思った。
(……ちょっと待て。危ないんじゃ?)
猿の手。
悪魔の取引。
願いを聞くフリをして、本人が絶望する形で叶える。
よくあることだよな。創作物では。
だから
「待ってくれ!」
……反射的に止めた。
少年はキョトンとした表情で
「……何? 気が変わったの?」
「そうじゃない。一応、どんな叶え方をするのかを教えてくれ、というか……」
俺たちの直面している問題って何か分かってんの?
そう続けようとした。
だけど
「ああ、君たちは外国の国策のせいで、破滅の一歩手前なんだよね? それは分かってるよ」
平然と。
その前に謎の少年は言って来たんだ。
俺たちが何を問題にして、何を解決したいのかについて。
えっ、と思った。
驚く俺たちをそのままに、少年は続ける。
「だからまあ、そこの外国人の女の子の国籍を書き換えて、もともと日本在住の生粋日本人に設定変更。元居た国の国籍を削除して、最初から居なかった人間にする。これで何か文句があるのかな?」
少年は俺たちに探るような視線を向けながら、そう言い切った。
……あんまりにも意味不明過ぎて。
色々、突っ込めない。
何でそこまで知ってるんだ?
設定変更って?
「……あなた、何者なんですか?」
ポツリ、と。
夏海が訊ねる。
少年は頬を指先で掻きながら
「……まぁ、うん」
少し悩んだ様子を見せた。
そして言葉を選んでる仕草で
「君たちに一番わかるように表現するなら……」
少しだけ間を置きながら
「神様、かなー?」
そう、伝えて来たんだ。
「……神様?」
夏海が思わずおうむ返しに繰り返す。
まさか、神様……?
それにさっき、設定変更って……
「設定変更って、この世界って創作物なのか?」
俺たちは人間が創り出したキャラクターなのか?
実は本当の人間じゃ無いのか?
不安に襲われたので思わず口に出していた。
だけど
「ああ、それは言葉のアヤってやつだから」
君たちは人間だよ。
間違いなくね。
この世界も現実だから。
コンピューターのシミュレーションとかそういうのじゃない。
……的確に、俺の不安を拭うことを言ってくれる。
ホッとした。
そんなホッとした俺に畳み掛けるように
「正式な記録で、そこのサクラちゃんが生粋の日本人ということになれば、彼女の元祖国も手を出さないさ」
だってそんなことをすれば、ただの拉致でしょ?
日本国としてはそんなこと、面子を完全に潰される行為だから、向こうもおいそれとは選べないよ。
そしたら万事解決。
彼女も外の世界で生きられるから皆幸せになれるよ。
……これで何か問題が?
そう、楽しそうに自分のプランを開示する謎の少年……いや、自称「神様」
うん、それなら全く文句はない。
サクラが日本人になり、迷宮の外で生活できて、口座も作れて部屋も借りられる。
そうなれば俺も違法行為を続けなくていいし、外の世界で仲間で集まることも出来る。
「ええと、サクラちゃん。君のこれからの名前は佐倉芳美でいいかな? 下の名前はキミの元々の名前を参考にでっち上げたんだけど」
そんなことを言いつつ、自称神様は空中に「佐倉芳美」の漢字を投影。
サクラは「それでオネガイシマス!」と返答。
話がどんどん進んでいく……
俺はそこで
「ちょっといいすか神様?」
続けてサクラに、自称神様がこれからのサクラの基本的な環境について話している中。
俺は割り込むように一言入れた。
神様は
「何だい頼朋くん?」
サクラ同様、名乗ってもいないのに俺の名前を正確に口にする。
そこに俺は少し恐怖を感じたが
訊いたんだ。
「……あなたは何で迷宮を創ったんですか?」




