第180話 鉄斬
夏海にニヒムを預けて。
今、手にしているヴァルハラブレイド。
鍔の部分に翼の意匠がある両刃の直剣。
長さは剣身と握りを合わせて約120センチ。
色は白基調。
純白の剣と言っていいかも。
ニヒムの真逆。
軽く振ったが手ごたえは悪くない。
まあ、2000万円の魔剣が剣としてはナマクラも良いところなんて、あり得るはずないけどさ。
……しかし、ネタバラシされてみれば色々納得だな。
相手は第六感があったから、魔法攻撃を一切して来なかったんだ。
魔法攻撃をしても簡単に回避されてしまい、隙になるだけ。
それを実感できて。
多分コイツは早々に、俺が勇者の上級職持ちであることに気づいたんだろう。
だからやって来なかったんだ。
俺は魔法を使うことが出来ないから、魔法の集中による白兵戦闘における隙の発生は良く分からないけど
黄金の騎士が牽制に魔法を使う事すら諦めたことを考えると、あまり無視して良いものじゃないのかもしれないな。
そんなことを復活した黄金の騎士と斬り結びつつ、なんとなく考えた。
俺の隣の戦場では、夏海がサクラと榎本さんの協力を得ながらもう1体の黄金の騎士と戦っている。
……俺のニヒムを預ける相手は、夏海しか考えられなかったんだよ。
戦士の技能持ちの榎本さんでも、身体を鍛えぬいているサクラでもない。
夏海だ。
……技術の問題じゃない。
信頼の問題だ。
夏海以外に、この役を任せるのはどうしてもできなかったんだ。
そして彼女は「できないよ」とは言わなかった。
だからきっと、いや絶対にしてくれるはず。
俺はそこは疑っていない。
だからこそ……
俺は剣術の奥義「鉄斬」をモノにして見せる!
さっきからの斬り合いで、俺は何度か黄金の騎士の肩や脇腹に刃を走らせた。
その斬撃で黄金の騎士には
ダメージは一切ないようだ。
ニヒムじゃないからな。
……その事実は、黄金の騎士の攻撃を大胆にさせた。
当然だろう。
無視できる斬撃が出て来たんだ。
その分、大胆になるさ。
……まあ、それを狙っているんだけど。
第六感の弱点は「慢心と油断」だ。
俺だって、一度はヘイロンの奴に左腕を奪われた。
一瞬の油断を突かれたせいで。
それを誘うんだ。
俺は油断なくヴァルハラブレイドを振るいつつ、脳裏で四戸天将の剣をイメージする。
初めて遭遇したときに本気で俺を殺そうとしたとき。
そして2回目の、果し合いのとき。
アイツの剣は力強く、殺意に満ちていて、とても鋭くて――
俺のイメージが、俺の腕に染み渡っていく感覚があった。
――出来る気がする!
そのときだ
「天麻くん! 今だよ!」
夏海!
彼女の声と共に、俺は覚悟を決める。
――やってやる!
「ウオオオオオオオ!」
雄叫び。
俺はこの一刀に全身全霊をかける。
ヴァルハラブレイドを八相に構え、突き進む。
黄金の騎士は動かない。
……分かっているからだ。
俺が袈裟斬りを繰り出すことを。
俺の攻撃の意思に付随する感情を読み取ることで。
だけどそれは、黄金の騎士は回避する必要は無いと思ってる。
受けても致命傷にならないと。
自分の甲殻で受け止められる。
その自負があるんだろ。
だから黄金の騎士は長剣を下段に構え、胴薙ぎの構えを取った。
多分コイツのプランは……
俺の剣をそのまま受けて、その隙をついて俺の胴を薙ぎ払う。
後の先は狙ってない。
言うなれば後の後だ。
自分が決して致命傷を受けない確信があるから成り立つカウンター……
そう来てくれると、思っていた!
俺たちの間合いは詰まり、ぐんぐん剣の間合いになっていく。
そして
互いの剣が届く位置。
俺の剣が振り下ろされる。
黄金の騎士は動かない。
その攻撃の意思も。
俺の剣は俺の人生で、一番の鋭さを見せた。
閃光の一刀。
それは
黄金の騎士の肩口に食い込み、そのまま胸部を斜めに両断し、そのまま反対の脇腹に抜けた。
――出来た。
鉄斬!
ピイイイイイイ!
黄金の騎士の叫び。
それはふたつして。
同時に
俺の目の前の黄金の騎士は塵に変わり
そのまま、二度と蘇って来なかった。