第179話 託された想い(霧生夏海視点)
~霧生夏海視点~
天麻くんが私に任せてくれた。
恋さんでも、サクラさんでもなく、この私に。
ものすごく嬉しかった。
絶対に期待に応えて見せる……!
私は駆け出し跳躍し
「フライト!」
そのまま飛行状態になった。
私の場合、これは必須だ。
戦うことを本気で視野に入れるなら。
私は黄金の騎士に的を絞らせないために高速で飛行しつつ
「恋さん! サクラさん! 黄金の騎士は勇者の第六感が――」
天麻くんから預かった、重大情報を2人に
伝えようとしたとき
「知ってるわ!」
「ちゃんと聞いてマシタ!」
すでに知ってるから。
その意味の返答が大きな声で返って来た。
……聞かれてたのか。
さっきの会話。
ちょっとだけ、恥ずかしい気持ちになる。
本当は褒められたことじゃないけどさ、恋人同士の会話のつもりだったし。
でもまあ、だったら話は早いよね。
天麻くんの……私の彼氏の上級職・勇者。
その固有能力「第六感」
詳細は知ってる。
だって天麻くんがすぐに教えてくれたから。
私には教えてくれたんだ。
他の2人……恋さんとサクラさんには教えなかったのに。
第六感はとても強力な固有能力だと思う。
だって「誰がどこを攻撃しようとしているかを全て察知できる」能力なんだから。
弱いわけが無いよね。
だけどさ……
だからと言って、無敵ってワケじゃ無いんだ。
だから天麻くんはギリギリまで私以外の人間にその詳細を話すことをしなかった。
他者に知られると攻略法を考案されてしまうからね。
仕方のないことなんだよ。
その証拠に……
「ヒートプロテクション!」
サクラさんの魔法。
向こうの魔法名で使って無いのは私に伝えるためだと思う。
その狙いは……
私はブリザードを使う意志を固めた。
……対抗して向こうがコールドプロテクションを使って来た場合、方針転換することを視野に入れつつ。
ピイイイイイ!
すると。
半分以上予想していたけど、宙を舞う黄金の騎士は鳴き声をあげる。
おそらくコールドプロテクションを使うための鳴き声を。
……それしか選択肢無いよね。
だって、全部分かっちゃうんだもの。
なまじ正解が見えるから、反応が固定されてしまうんだ。
それが第六感の弱点。
サクラさんのヒートプロテクションの対象は黄金の騎士。
その目的は、コールドプロテクションの上書き。
そのままだとブリザードを防ぐことが不可能な状態にするのが目的。
そこに私がブリザードを使おうとする。
すると……
当然、黄金の騎士としてはコールドプロテクションを掛け直さないといけないという思考になる。
だって、ブリザードの発生点から逃げるという選択肢はないから。
……もしかしたらフォースブラストかもしれないのに。
その場合、ふっ飛ばされて死ぬのは自分だ。
だから確実性を見るなら、コールドプロテクションでしょ。
でもそれは
ピイイッ!?
黄金の騎士の鳴き声。
これは多分呪文じゃない。
黄金の騎士がコールドプロテクションを唱える隙に、恋さんの分身が大ジャンプして組み付いたんだ。
分身の1体にジャンプ台の役目をさせて、大きく跳躍。
前に天麻くんが、サファイアドラゴン相手にやったみたいに。
隙の発生が確定で予想できるなら、こういうことも可能なんだよね。
黄金の騎士に組み付いた恋さんはその身体をよじ登り、空中で黄金の騎士を抑え込もうとする。
黄金の騎士はそれをさせじと数回
パッパ、と
テレポートを繰り返した。
全くの無駄だったけど。
だって、恋さん黄金の騎士にしっかり組み付いているもの。
どうやっても引きはがせない恋さん。
業を煮やしたのか、黄金の騎士はその手に握った長剣で
自分に組み付いている恋さんの太腿に、切っ先を突き立てる
「ぐぅ!」
恋さんの押し殺した悲鳴。
恋さんには頭が下がっちゃう。
この人、私たちの仲間に入るときに私に
「吉常くんのことを取ったりしないから安心して」
そう耳打ちしてくれて。
他にも色々、天麻くんとの距離を詰めるための相談に乗ってくれたんだ。
ありがとうございます……!
私は意思を固める。
ファイアーボールのグミ撃ちを浴びせる意思を。
その意志は、即座に黄金の騎士に伝わって
黄金の騎士は硬直した。
多分伝わったんだ。
私が全方位にファイアーボールを飛ばす意思があることに。
テレポートで逃げるにも、慎重に場所を選ばないといけない。
正解が出せないわけじゃ無いから、考えてしまう……!
ピイイイ!
再び悲鳴。
恋さんが、黄金の騎士の目に指を突っ込んだんだ。
この隙を逃すわけにはいかない!
「サンダーボルト!」
そして私は左手を突き出し、迸る雷撃を黄金の騎士に直撃させた。
組みついている恋さん諸共。
恋さん諸共に感電し、行動不能になり床に落下する黄金の騎士。
私はニヒムを強く握り、飛び出す。
ニヒム。
あなたの主の託された想いを、私に叶えさせて――
そんな気持ちを胸に、私は矢のように飛び出して
叫んだ。
「天麻くん! 今だよ!」