第178話 行くぞ!
「……分かった。やるよ」
夏海はそう返してくれた。
力の籠った声で。
そして俺の差し出したニヒムを受け取り。
両手で握った。
「……意外に軽いね」
ニヒムの切っ先を上に向けて握り。
ニヒムの黒い刃を眺めながら夏海はそう呟く。
俺はそんな彼女に笑みを向けながら
「まあね。それであの斬れ味が出るからすごいんだよ」
剣自体の重さで斬ってるわけじゃない。
この剣が魔剣である証明だと思う。
「……これだったら、斬り付けられれば私でも黄金の騎士が斬れるね。……任せて」
夏海の声は緊張はしていたけど。
怯えは無かった。
ただ、強い意志がある。
俺に頼まれたことを絶対に成功させてみせる、という。
俺は夏海にニヒムを渡し。
引き換えに、彼女からヴァルハラブレイドを受け取った。
こっちはわりと重さがあった。
まぁ、持てないほどじゃ無いけど。
ニヒムよりは確実に重い。
俺は二刀流で使っていた、普通の迷宮産の長剣を鞘に戻した。
……俺はコイツの一刀流で行く。
どうしても成し遂げなければいけないことがあるからな。
俺がヴァルハラブレイドを八相に構え。
夏海がニヒムの切っ先を黄金の騎士の片割れに向けたとき。
塵になっていた黄金の騎士が再結集し、再び形を取り戻した。
無数の塵が寄り集まり、黄金カブトムシの怪人騎士の姿を取っていく。
――時間いっぱいだ。
「じゃあ頼む。夏海」
「うん、任せて」
最後に言葉を交わし合い。
俺たちは
「いくぞ!」「いくよ!」
その言葉を同時に発して
飛び出した。
俺が二刀流を止めた理由。
それは……
四戸天将の言っていたこと。
それが理由だ。
あの日、アイツとの果し合いに入る前。
アイツはこう言った。
ニヒムなんて鍛え抜いた人間には不要な魔剣だ、と。
何故なら、剣術の奥義に全く同じことが出来る「鉄斬」というものがあるから、と。
それを身につければ、ニヒムを振るうことと同じことが、ニヒムでない剣でも再現できるんだ、と。
……アイツはろくでもない人間性の男だけど。
バレたら恥を掻くような嘘を吐く奴じゃない。
そして……
自分で出来もしないことで、他人にマウントを取るようなプライドの無い情けない行為もする奴でもない。
だから多分、あいつ自身も鉄斬が出来るはず……
俺はそう踏んでいた。
俺はアイツの剣を思い返していた。
アイツの剣……
きっと鉄斬を使っている。
俺もそれが出来れば、ニヒムでなくても全てが斬れるんだ。
思い出せ……そして身につけろ……!
大丈夫だ。
自分を信じろ。
……今の俺なら……
絶対に出来るはずだ!