第177話 無敵の理由
変だろ!
何でブリザードしか警戒して無いんだ!?
攻撃魔法にはファイアーボールやサンダーボルトだってあるんだぞ!?
ファイアーボールはまだ見てから回避は可能だけど、サンダーボルトは無理だ。
的にならないように動き回る以外、対処法なんて無い。
発動から命中までの時間が短すぎるからな。
だったらあの場合、この黄金の騎士が取るべき最適解は……
即座に玉座を飛び立って、残り2つの攻撃魔法に対する警戒をすることだろ!?
もしかしたらその2つは無効なのかもしれないが。
迷宮の性格上、その場合は黄金の騎士が火炎のブレスや雷のブレスを吐かないことに違和感がある。
もしくはそもそも全部効かないか。
だから多分、耐性は無いと思うんだ。
じゃあ、どうしてこいつはファイアーボールとサンダーボルトの魔法の存在を無視した?
それは……
その2つが来たら、回避すれば良いと思ってるのかもしれない。
何故って察知できるから。
俺は仮説を立てていた。
今の一連のコイツの行動で。
……コイツ。
ひょっとしたら、上級職の固有能力も複数持っているのかもしれない。
俺の予想では
勇者の「第六感」
そして忍者の「分身の術」
だから……
「ブリザードが効かない!? コールドプロテクションを使ったんだよね!?」
夏海の悔しそうな声。
「同時に倒せば倒せるかもと思ったのに! どうしてバレたの!?」
……彼女もその結論に至ったみたいだ。
だから俺にフォースプロテクションを掛けたふりをして、ブリザードを使用したのか。
だけどそれは、あいつには攻撃の意志が筒抜けで。
対処された。
その対処が、フォースプロテクションとコールドプロテクションの同時使用。
何故その2種なのかというと、フォースブラストとブリザードは2つとも指定の1点を中心に魔法を発動させるタイプの攻撃魔法だから。
つまり、攻撃の意思の位置でどっちか判別できないんだよ。
ファイアーボールやサンダーボルトは、攻撃の意思がその魔法の軌道上になるからな。
第六感があるなら楽に避けられる。
だからその2種なんだよ!
俺はブリザードで行動不能になっている目の前の黄金の騎士に袈裟斬りを浴びせる。
俺のニヒムの刃は黄金の騎士の甲殻で守られた身体を簡単に切断する。
即座に塵になり霧散していく黄金の騎士。
……よし!
俺はそこで黄金の騎士の復活を待たずに後ろに下がり、夏海の隣に向かう。
そして彼女に強い口調で
「夏海!」
俺は言った。
「ヴァルハラブレイドを渡してくれ!」
有無を言わさない調子で。
俺の言葉に彼女の眼鏡の奥の目が見開かれる。
「ヴァルハラブレイドを!?」
「ああ!」
戸惑う彼女に俺はそう返す。
ヘイロンから鹵獲した貴重な魔剣。
ヴァルハラブレイド。
俺には考えがあった。
だがそれを説明している時間は無い。
「アイツはおそらく、勇者の固有能力の第六感を持ってる!」
まだ塵のままの黄金の騎士を指差し、結論だけ彼女に伝える。
夏海は俺よりずっと賢い女の子だ。
きっと理解してくれるはず……!
「第六感……」
「そう。だから……」
俺はニヒムを彼女に差し出した。
夏海は「えっ」と声を洩らす。
俺は続ける。
「俺が片方をヴァルハラブレイドで片付ける」
夏海も言っていたけど、おそらく黄金の騎士は2体同時に倒さないと倒せないのは真実だ。
だから
俺が片方を仕留めるときに……
「そのときに夏海、お前がもう片方を同時にこれで仕留めてくれ!」
俺のその言葉に。
夏海の顔色が変わる。
緊張と……覚悟の色に。