第172話 黄金の騎士
転移門を潜った先。
一瞬の眩暈の先。
俺は、俺たちは厳かな部屋にいた。
見た感じは、どこかの王宮の謁見の間。
かなり広い。
部屋の材質は真っ白な石で、それはこの第9階層の迷宮の建材と同じに見える。
大理石かな?
あまり石に詳しくないから自信は無いけど。
床には赤い絨毯が敷かれていて、目の前の一段高い場所に玉座が2つ。
そこに黄金の甲冑で身を固めた鎧騎士が2人……
いや、違うな。
……訂正。
黄金の甲殻を持つ、蟲怪人だわ。
人面の蟲怪人。
こいつは黄金色のカブトムシ怪人。
そう表現するのが一番適切だと思う。
身体は全て蟲怪人で、その顔の部分だけが整った成人男性の顔をしていた。
その人種としては黄色人種で良いと思う。
……ひょっとしたら他の国の迷宮では、別人種だったりするのかもしれないな。
俺たちには知りようもないことだけど。
その成人男性の顔は、俺たちを嘲るでもなく、見下すでもなく。
ただ無感情に眺めている。
玉座に腰掛けて。
その手に一振りの西洋風長剣を、その切っ先を床に突き立てる格好で握りながら。
剣の色も同じく黄金。
鍔の部分の意匠に、クワガタの大顎のデザインが施されていることが分かった。
よし。
俺はニヒムと長剣を抜く。
取り敢えずの作戦は……
俺が片方を受け持ち、もう片方を残り3人で抑える。
俺が片方を倒せたら、残り1体を皆で倒す……
まさか黄金の騎士が2体居るとは思わなかったけど。
だったらやることは分断だろ。
2体を協力させるのは悪手だ。
「……片方お願いね。吉常くん」
俺が自分の考えを伝える前に。
榎本さんも同じ結論に達したみたいだ。
俺は頷く。
俺たちが戦う意志を見せたのを見て。
黄金の騎士が立ち上がる。
……たった1体が。
えっ、と思った。
2体では来ないのか?
どうして?
戸惑いがあった。
あったけど……
ドン、と黄金の騎士が床を蹴り。
背中の透明な羽根を広げて。
こちらにその予想される身体の重さとは不釣り合いな身軽さで突っ込んで来たとき。
俺にそれ以上考える余裕は無くなった。
黄金の騎士が振り下ろして来た長剣の一撃を受け止め、即座にそちらに思考を集中させた。
黄金の騎士から本気の殺意をビンビン感じる。
俺の首や、心臓の位置、腹、太腿。
本気で仕留めに来ていることが分からされる、混じりけの無い殺意。
その鋭さ、冷たさに気圧されそうになるけど……
……やれる!
これまで、誰もコイツに勝つことができなかった。
だけど俺はやれると思った。
きっとこれまで駄目だったのは、誰も勇者を取得しなかったからだ。
それが今回は違うんだ。
……やって見せる!
俺は二刀を握り直し、冷静に吹き付ける黄金の騎士の殺意を意識しながら立ち向かう。
絶対に勝つ。
絶対に勝って……
この詰んだ状況をひっくり返す!