表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/172

第170話 行くしかない

 サクラが目覚めるまでの数時間。

 一応は「最後の休憩時間」のはずだったんだが。


 正直、休めた気がしなかった。


 いつエレベーターが動き出して、ここに追っ手がやってくるかと気が気で無かった。


 榎本さんは「忘れなさい。どうしようもないことなんだし」と言い切って。

 開き直って寝てしまっていたけどさ。


 俺は寝れなかったね。


 夏海は俺に寄り添って、俺の傍で一応寝てくれたけど。

 俺は1人、結局ずっと起きてた。


 ……今の時間は何時くらいなんだろうな?


 俺たちが今日迷宮入りして、戦い始めたのが午後5時くらいのはずだから

 多分今は、夜中の10時過ぎか……


 夏海の家は「娘が帰って来ない!」と大騒ぎになってそうだ。

 でも、戻るわけにはいかないし。


 外の世界で安心できる要素がまるでない。


 隣で俺に寄り添って寝ている夏海は寝言で


「こんなのないよ」


 って呟いた。

 あまり良い夢を見て無いみたいだ。


 表情が辛そうだったから。


 ……最下層に辿り着いて、全部解決すれば良いんだ。


 俺は彼女の表情を見て、その思いを強くする。



 そして



「……行きまショウ」


 サクラが目覚めた。

 数時間休んで、神託の消耗が回復したらしい。

 その目には気力が戻ってる。


 ……焦りの色はそのままだけどさ。


「じゃあ行こう。グズグズしていたら、ここも嗅ぎつけられるかもしれない」


 入り口はまだ簡単に突入できるからな。

 見つかる可能性はそれなりにある。


 でも奥に進めば、追っ手に追いつかれる可能性はグッと低くなる。


 自分も命の危険があるのに追いかけて来るのには、大きな理由が要るから。

 もしかしたら奥に居るかもと思っても、追跡の選択肢は取り辛いはずだ。


 ……人喰い熊が跋扈する山奥に、指名手配犯を追いかけていくのは簡単に決断はできないだろ?

 絶対に準備するし、考えもするはずだから。


「ええ」


「そうね」


 俺の言葉に夏海と榎本さんが同意する。


 その言葉を聞き


「OK! 絶対に最下層に行こう!」


 俺は皆に向かって、決意を高めるための言葉を口にする。


 口にしたことは実現するんだよ。

 どっかのスポーツ選手がそんなことを言ってた!




 9階層のモンスターは、8階層と比較してあまりにも強さが違うと言われている。


 具体的にどう違うのか……?


 それは


「このルビーガルーダ、弱点属性は!?」


「火炎属性だと思う! 吹雪のブレスと雷のブレスを吐いたから!」


 ……これまでの経験が役に立たないんだ。

 モンスターの外見は、これまで倒して来た番人がメイン。


 メタルタイガー、ブラックトータス、サファイアドラゴン、ルビーガルーダ……


 それで、耐性や特技がメチャメチャ。


 最初に入った部屋で出会ったメタルタイガーとブラックトータスは


 メタルタイガーの装着している鎧に、迷宮産武具の属性がついてて。


 ブラックトータスは人間の顔が召喚魔法を唱えて来た。


 その次の部屋でまた、同じコンビに遭遇したけど、今度は


 メタルタイガーが僧侶の魔法を唱え、ブラックトータスは炎を吐いて来た。


 これまで積んで来た常識が役に立たない。

 その上……


 宝箱が全く出ない。


 死ぬほど戦いにくいのに、リターンが無いんだ。

 ひょっとしたら出現する可能性だけはあるのかもしれないけど、俺たちのパーティはこの階層でまだ宝箱はお目にかかっていない。


 ……そりゃ、誰もこの階層には来ないよな。

 無駄に命を賭けるような真似、誰だってしたくないはずだし。


 俺たちは今、ルビーガルーダ2体と対峙していた。

 本来は雷属性が弱点の、第7階層の番人。


 でもこの2体は、おそらく違う。

 何が弱点なのか、アナライズが効かないので不明……


 この石室の上を飛び回ってるそいつらを見つめ、俺は隣の夏海に言う。


「とりあえず、俺にサイレンスを」


 サイレンスは対象の音を消す魔術師系魔法。

 本来の使い方は、敵の魔法の発動を封じるために使う魔法だけど。


 俺は別の使い方をしている。


「分かった。……ちょっと気合を入れれば破れる程度に強さを抑えるけど、1回破ったらまた掛け直しだからね?」


「分かってる」


 俺は頷く。

 夏海はそれを見て軽く集中し


「サイレンス!」


 俺に魔法を掛ける。

 同時に俺は駆け出す。


 そのときの俺は


 足音が一切合切消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想をいただけましたら必ず返信致します。
些細な感想でも頂けましたら嬉しいです。
ブクマ、評価、いいね等、いただけましたら感謝致します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ