第169話 第9階層は
第9階層は……まともなダンジョンだった。
材質は大理石みたいな白い石。
見た感じ、神殿の風格がある。
清潔で、神秘的で……
壁には彫刻まであって、いかにもラストダンジョンという印象を受けた。
「さて、じゃあここでしばらく……サクラさんが目覚めるまで待ちましょう」
エレベーターを出て。
サクラを床に、仰向けに寝かせる榎本さん。
枕代わりに自分の鞄を使わせつつ。
エレベーターから追っ手が来ることが気になるけど、逆に言うとそれ以外は気にしなくていい。
まずこの階層に来ないとテレポートは使えないのだから、突然エレベーターが動き出してここに籠が来なければ心配は無い。
「じゃあ、ここで数時間休憩ですね」
追い込まれた状況だけど。
夏海が明るくそう言う。
彼女はサクラの荷物を床に下ろした。
……おや?
「霧生、その鞘は……」
「あの人たちの装備を貰って来たの」
淡々と、彼女。
彼女がサクラの荷物と一緒に持って来たもの。
それは……
ヘイロンの主力装備だったヴァルハラブレイド。
基本取引価格2000万円の超レアな魔剣。
それを持って来たのか。
ヘイロンの身体から鞘まで外して……
「こんな事態になったのはあの人たちのせいだし、このぐらいはしょうがないでしょ」
夏海は淡々と言う。
その言葉は何処か硬くて
……こういうの、鹵獲って言うんだっけ。
俺にはそういう発想が無かった。
イッパイイッパイだったから。
でも……言う通りだ。
これから向かうのは、誰も潜り抜けられなかった最強の試練。
そのための武装は多い方が良い。
なので倒した敵の持ち物を奪い取ったとしても、非難される筋合いは無いだろ。
こっちはムリゲーを押し付けられたんだ。
全部終わった後にどっかに捨てたら、強盗の誹りは免れるよな。
法的にどうかは知らないけど、道義的にはさ。
なので俺は
「……そこまで気が回らなかった。ありがとう」
彼女に感謝して。
「夏海」
そこは名前で呼んだ。
迷宮探索中は恋人であることは持ち出すなって言われてるけどさ。
ここはそう言いたかった。
夏海は
「天麻くん。……ありがとう」
何故か。
俺に対して、何だか嬉しそうにそう返して来た。
榎本さんはそんな俺たちの様子を見ていたけど。
別に何も言って来なかった。
寝ているサクラの傍で三角座りで座り込み。
黙って俺たちを見ていた。
……これから向かう場所が危険極まりない場所だから。
そういう時間を持たせてやった方が良い。
最後の心残りになるかもしれないんだし。
そういう気遣いかもしれないな。
……ありがとうございます。