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第163話 刺客の固有能力

 吹き付けて来る殺気。


 殺気の位置が俺には感じ取れる。

 勇者の固有能力だ。


 俺の顔面の位置と太腿に殺気を感じる。


 殺気の主は丸刈り男・ヘイロンで。


 彼は俺に突っ込んで来た。

 突っ込みながらその手の剣を振りかぶり――


 殺気の位置から考えるに、俺の顔面に斬撃を入れて体勢を崩し、その隙に二撃目で俺の太腿を斬るつもりか。

 だったら……


 俺は前に踏み込む。


 そのまま横殴りの斬撃を身を沈め、躱す。


 この回避を想定してなかったのか、ヘイロンの二撃目から鋭さが失われる。


 アンタらの国にも、勇者は存在して無いのか。

 ウチと違って国策でやってるんだから、ひょっとしたら居るかもしれないと思って……


 居たんだけどな!


 そう思いつつ斬り上げる。


 俺の剣先を身を捻って躱すヘイロン。


 だけど


 剣先はヘイロンの顎を割った。

 致命打にはならないが、ざっくり行った。


 それなりの重傷だ……


 撤退に追い込まれるようなダメージを与えれば、彼らは逃げ帰るかもしれない。

 心の奥で、俺たちが彼らを完全に倒す……つまり殺害しないと終わらないのではないかと思っていたけど。


 そこまでしなくても終わらせることが……


 できるかもしれない、と思っていた。

 その瞬間は。



 まず、俺は


 自分のこめかみに殺気を感じた。


 目の前のヘイロンじゃない。


 つまりバイロンだ。


 瞬間的な判断で、俺は仰け反るように頭の位置をずらす。


 その瞬間、パンという破裂音がして


 俺の目の前を、致命的なものが通り過ぎて行った。


 ……銃弾!?


 弾かれたように視線を向ける。


 そこには


 右手に拳銃を持ち、硝煙が立ち昇る銃口をこちらに向けたバイロンがいたんだ。


 えっ……

 この迷宮で、銃器……?


 あまりの驚きに、俺の思考が停止する。


「天麻くん! 危ない!」


 夏海の叫び。

 ギリギリだった。


 不意を打つ形で、ヘイロンが襲って来た。

 大上段の斬り下ろし。


 危うく、唐竹割りを喰らうところだった。


 俺は大きく後ろに跳躍して距離を取った。


 そして再び驚愕した。


 ……ヘイロンが無傷だったんだ。


 魔法を使う声は全く聞こえなかったのに。

 感知能力が増幅された俺の耳に、だ。


 ……どういうことだ?

 情報量が多過ぎて、俺は混乱しそうになる。


 魔法を使わずに傷を癒し、迷宮内で銃器を使う。


 ……これは……



「知らなかったんですかね? 錬金術師の固有能力・錬成で創り出したものは、迷宮内でも使用できるんです」


 バイロンは目に殺意を滾らせつつ、そう口にした。


 錬成……

 学者と魔術師の上級職・錬金術師の固有能力。


 その気になれば独力で創り出せるくらい把握した道具類を、無から生み出す能力……

 その道具類は、術者本人が存在を認識している間は存在し続ける。


 それをこんな風に使うなんて……!


「……そして俺は聖騎士。聖騎士の固有能力は『加護』……常時プロテクションと、ヒーリングが掛かり続けている状態……」


 続けて、ヘイロンが語り出した。

 自分の固有能力を。

 勝ち誇った顔で堂々と。


 戦士と僧侶の上級職・聖騎士。

 その固有能力で常時プロテクションとヒーリングが掛かっている。

 だから魔法も使っていないのに傷が治ったのか。


 謎が……解けた。


 ヘイロンはさらに続ける。


 これだけでも厄介なのに。

 さらに絶望的な告白を


「見るがいい」


 ヘイロンはそう言った後。


 いきなりその右手に握った剣で。


 自分の太腿を突いたんだ。

 ドスリと。


 だけど……


 引き抜いた剣には血がついていたけど


 太腿からは血は噴き出さなかったんだ。


 聖騎士の固有能力『加護』はそこまで強いのか……?

 そう思っていたんだけど。


 違ったんだよ。


「この剣は魔剣ヴァルハラブレイド。……有名だから聞いたことくらいあるだろう?」


 ヴァルハラブレイド……

 握るだけで使い手の負傷を癒し、痛覚を遮断する魔剣……!


 それはつまり……


「固有能力とこの魔剣の効果の合わせ技で、俺には即死級の致命傷以外効果が無いんだ!」


 加虐的な色を含んだ笑みを浮かべつつ。

 ヘイロンは言い放つ


 その、絶望的な事実を。

 そして


「我々の温情を蹴ったことを後悔し、絶望しろ! ブチ殺してやるぞ腐れ日本人ども!」


 ヘイロンの魔王のような叫びが、その場に大きく響いた。

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― 新着の感想 ―
これって優しく怪我させて撤退させてやろうとしたのに息の根を止めるしかなくなったって事だよね?
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