第162話 答えはNO
「私の答えはNOです!」
だけど。
俺が答えを出す前に
夏海が真っ先にそう言った。
その表情は平静で、声も震えて無かったけど。
足が少しだけ震えていた。
俺たちの了解を取らずに、勝手に自分の返答をする。
……だから最初に「私の」と
自分の意見であることを示したんだろう。
こういうことは相談することじゃない。
人生の決断のようなものだしな。
誰の了解も取らずに、自分で決めなきゃいけないことなんだ。
俺はそれに対して同感だったから、夏海のその行動に怒りを覚えたりしなかった。
答えを出す前に、俺たちの了解を取れよとは思わなかった。
だから俺もそれに続く。
「……俺もNOだ。サクラさんは明らかにアンタらの国に帰るのを嫌がってる。ここでアンタらに屈したら、多分俺は一生後悔すると思う」
自分は仲間を見捨てた卑劣なヤツ。
そう自分を評価し続ける一生。
そんなの願い下げなんだよ。
だから答えはこれ以外無い。
俺たち2人の言葉。
サクラは……
「ソンナ……」
それに「ありがとう」とは言わなかった。
でも、その呟きには喜びがあったような気がする。
彼女は見捨てられることを覚悟していたのかな。
その声に感動があった気がした。
「……参ったわね」
そして
最後の1人の榎本さんは
「……未成年の2人にそんな返答を返されたら、アタシもそう言うしか無いじゃない」
ここでアタシだけ逃げたいです、なんて。
ダサ過ぎて死んじゃうわ。
一応大人だし、面子があるのよ。
そう渋面で言いつつ、ファウストを構える。
そして続けて
「……いい事? これが全部終わったら、岡山にお酒を持って挨拶に来なさい」
アタシはブランデーが好きだから、最高級品を買ってくること。
良いわね?
そう、軽口混じりにそう言ってくれる。
榎本さん……
俺の心に、熱いものが湧く。
皆、サクラを見捨てることを拒否した。
そんな俺たちを前にして
「……こっちの温情を無にするわけですね? くだらない島国の方々?」
カマキリ男・バイロンが面倒くさそうに、不愉快そうにそう言う。
まるで想定外のサービス残業を押し付けられたみたいに。
そのイライラした気持ちが、声に出ていた。
「バイロン」
そんなバイロンの様子に
「日本人は本当の闘争を知らないマヌケでおめでたい奴らだ。この状況を正しく認識出来ないのさ」
丸刈り男ヘイロンが心底見下した口調で続ける。
俺たちに向けて剣を構えながら。
「……それはどうかな?」
ヘイロンを睨むように視線を向けつつ。
……俺も剣を構えた。
この戦い、負けるわけにはいかない……!