第161話 選択
司祭候補生を唆して他の国に送り出す……?
その言葉を俺が認識したとき。
「ウソデス!」
悲鳴のようなサクラの言葉がその場に響く。
「ワタシ、自分の意志で日本に……」
「ニーシブシーシャ? ニーダジーフアイエタイシュンリーラバ? ジウメイジュエドゥエブードゥイジンマ?」
だけど。
叫ぶサクラの言葉に被せるように、外国語でカマキリ男が何か言った。
その言葉で、サクラがそれ以上何も言えなくなった。
……言葉の意味は分からない。
けど。
内容はなんとなく予想できる。
多分カマキリ男は
お前の認識は妄想だ。お前の決断は全部俺たちの手のひらの上だったんだよ。
そういうことを言ったんだ。
「ウォブーヤオフイチュ! ニーメンシーシアンリーヨンウォライドゥイフゥーリーベンマ!?」
「ルーグォニーブーティンウォメンダ、ナーウォジウバァニーダートンバンチュエンドウシャーラ、ザンマヤン?」
さらに俺に分からない言葉で会話するサクラとカマキリ男。
カマキリ男の言葉に、サクラは真っ青になる。
ぶるぶる震えながら。
「さて」
そこで。
カマキリ男が俺たちに向き直る。
「日本の皆さん、我々はただ単に脱走した自国民を回収に来ただけです。迷惑を掛ける気は毛頭ありませんので、どうかご協力をお願いできませんかね?」
気持ち悪いくらい、優しい笑顔を俺たちに向けながら。
俺は
「……断ったらどうなる?」
そう訊く。
カマキリ男は
「……ええと、日本の法律では外国人を迷宮探索者として活動させるのは違法でしたよね? タレこみましょうか?」
そう、穏やかに脅して来た。
その言葉に俺たちは圧力を感じざるを得ない。
……言ってること自体はホントのことだからだ。
でも
「でも、証拠が無い!」
ハッタリだ。
タレこむにしても証拠が要るはず。
その証拠をこの迷宮では用意できないだろ!
そう思い、俺は叫んだ。
だけど
「そうですね。ですがそんなもの、作ろうと思えばなんとでもなりますが」
カマキリ男の調子は変わらない。
証拠なんて捏造してやる。
俺はその言葉にゾッとした。
痛い腹が無いなら「やってみろ」って言えるけど。
こっちには痛い腹がある。
証拠を捏造されて、検証されるだけでも危ない……!
どうすればいいんだ……?
必死で俺は頭を回そうと……
したんだけど
「ああ、めんどくさいな。……ハタで聞いてれば。オイ、バイロン。そんなメンドクサイことやめろ」
腰に剣をぶら下げたゴツイ丸刈りが。
会話に割り込んで来た。
「……こう言ってやればいいんだよ。その女をこっちに返さないならお前らを殺してやろうか? って」
そう言って。
その腰の剣を抜く。
それは西洋のロングソードのデザインで。
鍔の部分に翼の意匠があった。
「そういう野蛮なことを平気で言う民族性だと思われると嫌じゃ無いか。もっとクレバーにするべきだろヘイロン」
丸刈りの言葉にカマキリ男……バイロンがそう返す。
苦々しい表情で
「すぐそういう方法を口にするからいつまでも、後進国みたいに思われるんだよ」
とはいえ、そうは言いつつも
バイロンは頭を掻きつつ
「……まあ、ぶっちゃけるとその手段もこっちは可能です」
丸刈り……ヘイロンの言葉に同意した。
そのまま、恐ろしく冷たい目を俺たちに向け
「……どうしますか?」
その言葉と同時に……
「密入国者の不法滞在の外国人を守って死ぬか。それともおとなしく引き渡すか」
凄まじい殺意が、俺たちに吹き付けて来た。