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第160話 ウチじゃ無理なので

 日本語ではない。


 だから当然、俺はサクラを見た。


 サクラは……


 顔を強張らせていた。

 ということは……


 そう、思考を向けようとしたとき


「やあやあ、日本の皆さん。怖がらないで下さい。我々は敵じゃ無いです」


 丸刈り男の隣のカマキリ男が、そんなことを言って来た。

 流暢な日本語で。


「一体何の用!?」


 榎本さんは大声を出す。

 危機感を持ってるから、自分を鼓舞するためだと思う。


 ここで心が負けたら、危険だし。


 カマキリ男はそんな榎本さんに


「だから怯えないでください。あなたたちに何かしに来たわけじゃないので」


 口元に笑みを浮かべてそう返す。


 そして言った。


「我々はただ単に、そこの女を返して貰いに来ただけなんですよ」


 ……サクラを手で示しながら。




 サクラを……返す?


 処罰しに、じゃなくて?


 サクラは祖国を捨てて日本に密入国した亡命者だ。

 祖国としては、勝手に国を捨てて逃げるような奴を許さないのは分かる。


 だから「裏切り者を殺しに来た」というなら、納得はした。

 許すかどうかは別だけど。


 なのに……「返す」?


「……返すってどういうことよ?」


 夏海が口を開いた。

 厳しい視線を男たち2人に向けながら。


 カマキリ男はそんな視線をどこ吹く風で


「ああ、連れ戻すタイミングが来たので、返して貰いに来たんですよ」


 笑みを浮かべたままにそう返して来た。


 連れ戻すタイミング……?

 一体、どういうことだ……?


 話が分からなくて、混乱しそうになるが


「つまりですね」


 ニコニコしながら。

 カマキリ男は説明した。



 ……現在、サクラの祖国では。


 僧侶と学者を併せ持ったクラス構成の迷宮探索者が、上級職を取るのが難しくなっている。

 向こうの第6階層に「司祭殺し」というモンスターが出現したからだ。


 カブトガニみたいな外見で、大きさもそのくらいのモンスターで。

 第6階層の巨大樹の木の幹に擬態して張り付いている。

 擬態中は形状も変わってて、動き出すまでまず気づかないらしい。


 そいつは普段ずっと眠ってて。

 僧侶と学者のクラス構成を持つ迷宮探索者が傍を通ると覚醒。


 飛びついて、尻尾の毒針を打ち込んで、数秒で完全に死なせるそうだ。


 なので、将来的に司祭を取得できる可能性がある迷宮探索者が生き残りにくい状況になってる。


 そうなったのは……


「ウチの国、司祭の固有能力の『神託』の有用性に着目して、量産しようとしたんですね。その影響だと思うんですよ」


 にこやかに語るカマキリ男。


 サクラの祖国は、神託を使える迷宮探索者を山のように育成し、それを国家運営に活かそうとした。

 気持ちは分かる。

 神託は確定事項であれば事の真偽が分かるもんな。


 そんなの使いどころがいっぱいあるだろ。

 科学研究でも使えるし。

 特に戦争なんて、使いどころがいっぱいあるはずだ。


 伏兵の存在だとか。

 謀略の有無とか。


 だから上級職・司祭を持つ人間がたくさん欲しい。

 そう思うのは理解はできる。


 ……でも


 どうも迷宮は、そういう姿勢は許さなかったみたいだ。

 なので量産できないようにそんなモンスターを配置した。


 そのせいで……


「現在ウチの国では司祭を育成できないんです。しょうがないので……」


 そこからカマキリ男の語ったこと。

 それは


「司祭候補生になった迷宮探索者を、唆して国外逃亡に誘導し、他の迷宮がある国に送り出すことにしたんですよ」


 ――俺たちに激しい衝撃を与えた。

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それ迷宮閉じるだけでは……
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