第159話 カタストロフ
「おはようございまーす」
そしてまた週末。
パーティをする日がやってきた。
榎本さん、まだバイトをしてるんだろうか?
バイト先がクソだったら、稼げるようになったら即辞められるだろうけど
それなりに恩があるなら
もう必要ないんで!
……って言って、即辞表出すの難しいだろうな。
突然辞められるのは店側としては損失で、ダメージには違いないから。
「おはよう2人とも」
エレベーター前で榎本さんと待ち合わせ。
挨拶する俺たち2人に、挨拶を返してくれる榎本さん。
俺はついでに
「まだバイトされてるんですか?」
そう訊ねる。
榎本さんは軽い感じで
「まあ、次のバイトで良い人が来るまでは働くつもり」
今の店長には世話になったから。
さすがにね。
……なるほど。
その気持ちは理解できるかな。
そんなことを一緒にエレベーターに乗り込みながら考える。
榎本さんは、俺に迷宮探索者としての義理人情に関することを教えてくれた人だ。
だからこの人がそういうムーブをするのは予想の範囲内だよ。
そのまま5階層に赴き、俺たちはサクラを拾った。
そしてそこから第8階層で。
「さーて、やるぞー」
俺は剣を2本引き抜きつつ。
そうやる気を見せるように呟く。
俺たちの前には、骸骨の肉食恐竜が数匹。
スカルティラノ。
平たく言うとティラノサウルスのスケルトン。
炎、吹雪、電撃、毒ガスが無効。
そして爆発が特攻。
大きくてパワーがあるので、近づくと危険。
向こうは肉が無いので、痛みを感じないようで。
斬りつけても全く怯まない。
なので安全に爆発……フォースブラストで処理したいところだ。
しかし
フォースブラスト……
夏海は今だとどのくらいの消耗なのか?
賢者を取る前は、1発撃つと少し休憩を入れたくなる程度に消耗してたわけだけど……
「なぁ霧生」
フォースブラストをお願いしていいか?
そう、夏海に訊こうとした。
そのときだった。
シュン、と。
俺たちの近くに2人の男が現れた。
……まるで
第4階層で、俺たちが四戸天将に遭遇したときみたいに。
それは体格の良い男たちで。
服装は軍服のよう。
濃い緑色で、首元に明るい赤の配色があった。
……コスプレか?
でも、この第8階層にコスプレ人がやってくるなんて。
ランク5の人間なのは間違いない。
テレポートを使って来たし。
それにここにいることが、ランク5であることの何よりの証明……
男たちの片方は腰に剣を吊り下げていた。
長剣だ。
そしてもう1人は手ぶら……
多分、こっちが魔術師系。
テレポートをしたのもこいつだろう。
剣を持った方は丸刈りで目が細く、骨格が太くて。
顔つきには凶暴さはなかったけど、身体は野獣のように感じた。
静かな野獣。
そういうイメージ。
もう片方の手ぶらの男は、そこそこ髪を伸ばした細身の男で。
隣の男と比較するからだと思うけど、なんだか貧弱に見えた。
顔つきは鷲鼻で、カマキリに似ている気がする。
えっと……
「ちょっと、アンタたち何だ?」
戸惑う。
まさかエンマか?
エンマは迷宮内犯罪には理不尽な制裁をするけど、自分たちの面子で他者を襲うような真似はしないと思ったんだけど……
流石に動揺する。
男たちから敵意を感じなかったから、余計に。
だけど……
「ジャーシン、ゲンウォーフェイチュイ」
えっ
その場の空気が止まった。
腰に剣をぶら下げた、丸刈りのゴツイ男の口から出た言葉は。
日本語では無かったんだ。