第158話 最下層に何があるのか?
「パーティの皆に最下層を目指しませんかって、どうやって言えば良いと思う?」
そして3年生になり。
高校最後のゴールデンウィークに突入。
連休中は迷宮に行く予定も無いので、デートのコーデで俺たちは2人で遊びに行ったんだけど。
新幹線で大阪に行き、大阪城や通天閣、花月とか。
色々2人で名所を見て回った後。
休憩で入った喫茶店で、俺たちは隅のテーブル席に陣取り。
俺はそう話を切り出した。
「えっ」
突然だったからか、向かいの席でメロンソーダフロートのアイスをスプーンで突いていた夏海は驚いた顔を見せ
周囲を見回し
俺が個人名を出さなかったことから、色々察して
「……ちょっと分かんない。ゴメン」
すまなさそうにそう詫びて来る。
……夏海もアイディア無いのか。
俺はそんな彼女に
「……最下層には何があるんだろうな?」
そう呟くように言う。
その言葉に
「多分だけど……何かしら賞品みたいなものがあると思うんだ」
夏海はそう返した。
「迷宮は挑戦して試練をクリアした人間にクラス能力や、より上級の狩場という特典を与えてくれてる……だとしたら、最下層に到達した人間には、それを上回る特別な何かが与えて貰えると思うのが自然だと思うんだよね……」
そしてそう続けた夏海の目は、最初に出会ったときに俺に夢を語ったときみたいに。
知的興奮で輝いていて。
「問題は、何でそんなことをしているのかってことだけど……最下層に行けばきっとそれも教えて貰えると思うんだよ」
メロンソーダフロートのソーダをストローで飲んで、くるくる中身をかき回しながら
夏海はそう楽しそうに言う。
迷宮を創ったヤツは何故そんなことをしたのか?
確かにそれは俺も気になる。
何のためにそんなことをするのか?
迷宮は、人間社会に直接的な迷惑を掛けてない。
そういう形で接触している。
犯罪を自由に行える場所の出現で治安の悪化を招いたが、それは迷宮のせいじゃない。
邪悪な人間のせいだ。
迷宮自体は「ただそこにあるだけ」で、こっちの世界にモンスターを放ったり、人間を無理矢理迷宮に引きずり込んだりしてないんだから。
俺個人の感想というか、予想としては……
迷宮を創った存在は、悪気を全く持ってないと思う。
俺たちを苦しめてやろうとか、殺してやろうと思ってない。
ただ、俺たちを尊いとも思って無いだろうけど。
俺たちが道端を歩く蟻に、何の感情も持たないみたいに。
別に蟻を狙って踏み殺そうとは思わないけど、仮に踏んで殺してしまっても別に何も感じないだろ?
そんな感じだ。
「でも」
俺は夏海の言葉に続ける形で
「最下層の到達特典が欲しく無いですか? きっとすごいと思いますよ、って言っても、誰も乗って来ないと思うんだよな」
そう言った。
第8階層で既に俺たちは、今年の年収が億越えが確実視できる状況。
そんな状況で「命の危険はあるけど、迷宮の最下層を目指しましょう」なんて言えないよ。
確実に「いや、嫌だよ」って言われるに決まってるし。
億越え年収で既に十分すぎるくらい裕福だ。
これ以上を目指して何になる?
それが自然な感覚だろ。
億越え程度では世界一の金持ちでは無いかもしれないけど、そんなものになることに意味は無いんだから。
でも……俺たちは見たいんだよな……最下層の第10階層にあるもの……。
「まぁ」
夏海はこの話を打ち切るために、俺の目を見つめて
「それは少しずつ考えて行こう? 何とかリスクを減らして、恋さんたちを誘いやすくなるアイディアが何か浮かぶかもしれないし」
そう俺に言う。
俺はその言葉に
「……だな。それ以外無いか」
頷かざるを得なかった。