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第157話 司祭の固有能力

「最近はちょくちょく外に出てるデス」


 また別の週末。

 榎本さんがたまたま、何か用事があるらしくて。


 パーティに参加できない状態になった。

 でも、俺たちの場合


 だったら今週は休みだな!

 俺たちも遊びに行くか!?


 ……こうはならない。


 電話連絡が出来ない立場である、サクラが仲間に居るからだ。

 彼女には直接言わないといけない。

 他に連絡手段が無いから。


 なのでその日、夏海と一緒にサクラの住んでる第5階層の廃ビルを訪ねた。


 そして榎本さんの不在を連絡し、今週のパーティ中止を伝えて……


 そのまま彼女宅で、所謂「おしゃべり」をすることになる。


 ……彼女は俺たち以外に人間的接点が無いもんな。


 多分密入国者だし。




 彼女は俺たちと会う前は、かなり制限された生活を送っていたけど。

 今はたまに外に出てるそうだ。


 前に渡した銀行のカードも無事に普通に使えたそうで。

 外で現金を自由に下ろせるらしい。


 それで服を買ってるのか、今日の彼女はジャージ姿じゃ無くて。

 青色のワンピースを着ていた。

 まだ外の世界は寒いけど、迷宮内は年中気温一定だからな。

 少し涼し気なこの衣装の方が相応しいのかもしれない。


 他にも、小物が増えてる。

 コップの種類も増えてるし、クッションなんかもあった。

 掃除機は無いけど、箒とちりとりはある。

 手動で掃除の出来るアイテム……


 ……ここに来た初期状態と比較したら、まるでセレブだな……

 そんなことを頭の隅で考える俺。




「ワタシ、映画を観に行ってマス。最近ではノライヌスレイヤー観ましタ」


 サクラは楽しそうに映画の話をする。

 電話を契約したり、ホテルに泊まれないのが気になるが、概ね快適に生きていけてるみたい。


「ノライヌスレイヤーって、保健所職員の話?」


「そうデスそうデス。銀等級の保健所職員の話デス」


 夏海がサクラの話を聞いてそう返す。

 それに応じるサクラも楽しそうだ。


 2人が楽しそうにしているのは俺も嬉しいけど……


「なぁ」


「何ですカ吉常サン?」


 俺の言葉に、目を向けてくれるサクラ。

 彼女を見据えながら


「……外の世界での安全性はどう確認してるんだ?」


 ちょっとだけ気になったからそれを訊ねる。


 彼女は不法滞在しているわけだから、国に見つかると強制送還されてしまう恐れがある。

 その安全性はどう確保してるのかな、と。

 そこがちょっとだけ気になった。


 上級職を取る前は、彼女からそんな浮かれた話は聞いた覚えがなかったから。

 俺の言葉に彼女は


「アア、それハ」


 楽しそうに教えてくれた。


「神託使っテ、前日に確かめてマス。映画館と、スーパー銭湯が今は安全かっテ」


 ……へえ。


 司祭の固有能力って、そんな使い方も出来るのか。


 司祭の固有能力「神託」


 それは「動かない事実を対象とした、物事の真偽を確かめる」能力。



 具体的には「自分が訊ねたことが正しいのかどうか知ることが出来る」能力。


 この「真偽を確かめることが出来る」という対象は「意志の力が関わること」が含まれない。

 だから対象が「動かない事実」なんだ。


 具体的には


 俺がこれから振るサイコロの出目が2かどうか当てることはできない。


 けれども


 既に振った後の壺の中のサイコロの目が2かどうか当てることはできる。


 その理由は「仮に俺に次の目に2が出ると伝えた場合に、俺が何が何でも2を避けようと努力する可能性が予測できない」からだ。

 対して「壺の中のサイコロの目は既に決定されているので、動かない」から当てられる。


 なので最近の俺の例で言えば「俺は四戸天将に挑んで勝つことができるか?」という質問は対象外になる。

 それを訊いた俺が慢心してアイツに倒される可能性があるから。


 簡単に、平たく言えば「動かない事実限定で、真偽を確かめられる固有能力」だな。

 それでもメチャメチャすごいけど。


 サクラはその能力で、ようは


 自分が明日行く場所に、現在役人のマークがあるか?

 それを確かめてるんだな。


 役人がマークしてない場所に行くなら、そこでよっぽどのことをしない限り、捕まって強制送還は無いだろ。

 そういう考えか。


 ……上手い使い方。


 代償で、神託を使うと相当な疲労があるらしいから、寝る前にでも使ってるのかね?


 俺はそこで


 ……最下層に挑んだら、破滅するかどうかを確かめて貰おうか?

 それが動かない事実なら肯定する神託が来るだろうし。

 違うなら、分からないという返答が来るだろ。


 そう考えた。


 思えば


 彼女は俺たちのパーティに加わるときに


 俺ならfinal stageに行けると思うから仲間に入りたい。


 そう言ったけど。

 このfinal stageが最下層じゃ無くて、上級職を指してるのは俺も流石に分かる。


 なのに、いきなり「最下層に挑んだ場合にどうなるか確かめて欲しい」なんて言ったら、ドンビキされるかなぁ……?


 そんなことを。

 この部屋の標準的飲み物である「浄化された水」を床に置いたコップに注ぎながら考えた。

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