第152話 俺の固有能力
「はい。そこまでにしましょう」
右手と剣を失った四戸天将に
中島氏がそう呼びかける。
客観的に見て、もうこれ以上戦えない。
中島氏の言葉はもっともだ。
だけど
「うるさいわチューさん！ 俺はまだ負けてへん！」
出血か、その凄まじい痛みのせいか青褪めて
四戸天将は変わらず吠える。
唾を飛ばしながら。
「別に負けてもいいでしょう。人生、そういうことはあることですし」
中島氏は穏やかな表情でそう告げる。
彼としては、俺に四戸天将が負けたことは大きな問題じゃないみたいだ。
エンマの面子が潰されたとか、そういう気持ちは無いみたいに見える。
そんな彼の態度に……
四戸天将は本当に悔しそうな顔をした。
それを見て俺は……
自分の勝利を実感し、満たされる思いだった。
ざまあみろという気持ちよりも……
こいつにとって、俺を牝豚に産ませたことが
道端で犬のフンを踏んでしまったような人生の汚点。
それではなくなったんだ。
だから俺は、もう良かった。
……だけど
「くそがあああああああ！」
怒りのままに大きく吠えた四戸天将は、切断された右手首を握り、出血を抑えながら
宙高く再び舞い上がった。
そして俺を射殺さんばかりの視線で睨みつけ
「死ねや！」
怒号をぶつける。
同時に俺の傍で
大爆発が起きた。
……フォースブラスト。
直撃すれば大型モンスターでも１発で行動不能になる強力無比な攻撃魔法。
普通の人間が喰らえば
おそらく、１発でミンチだ。
――喰らえばね。
「……な」
宙に浮かんでいる四戸天将は震えていた。
呆然とした表情で。信じられないものを見る顔で。
「なんで今のを避けられんねん……？」
なんでって……
アンタがフォースブラストを起爆するポイントから、真っ直ぐに全力で逃げただけだけど？
足にパワーチャージも併用して。
直撃しなければ致命打にならないし。
効果範囲から遠ざかるほど、ダメージは低くなる。
まぁ、分かんないよな。
そんなの
だって俺、勇者の固有能力、まだ国に報告して無いし。
……多分、エンマは国から情報を流して貰ってる。
その根拠は、上級職を得られそうな人間にピンポイントで勧誘を掛けて来ることが出来たからだ。
テレポートを普段使いしていた夏海はともかく、俺や榎本さんにまで。
全く目論見違いを恐れることなく。
そんなの、国に申告しているクラスの情報を掴んでないとおそらく無理だ。
だからそうに違いないと思ってる。
……おそらく国は、迷宮内の治安を維持するためには、迷宮内犯罪者に私刑を加える集団がどうしても要ると思ってて。
その活動に表立ってはいないけど、手を貸しているんだ。
表立ってすると、国が私刑を認めているように取られて叩かれるから、こっそりと。
だから国に勇者の固有能力を報告すると、そこから情報が向こうに洩れると思ってた。
……俺が上級職を取ったとき。
どうも勇者を取った人間が歴史上俺以外居なかったらしい。
その固有能力の内容を報告してくれれば、協力金として１０００万円出すと言われたよ。
無論税金の掛からない、正真正銘の１０００万円だ。
だが俺はその話を保留にした。
考えをまとめるからしばらく待ってくれ。
いい加減なことは書けないし、と言って誤魔化して。
勇者の固有能力……それは
『第六感』
今の俺は自分に向けられた感情を把握することが出来る。
その感情の内容把握は、好意や悪意、愛情、憎悪、恐怖の判断くらいのざっくりしたものだけど……
その位置は、正確に分かる。
俺の背中に向けられているとか。
俺の右斜め後方５０センチの位置だとか。
……だからまあ、俺はそのポイントから全力で逃げたんだ。
結果、俺はフォースブラストの有効範囲から外れた。
全力で逃げたから、俺は地面に身を投げ出していた。
素早く身を起こす。
そして言ったよ。
アイツを下から見上げながら
「……まだやんのかよ？ だったら俺にも覚悟があるぞ？」
