第150話 四戸天将の奥の手
再びこの男と戦う。
前の戦いでは、多分2~3分、こっちから一方的に攻撃する時間を与えられたけど。
今度は逆の構図だ。
それが余程気に障ったのか、四戸天将はガチだった。
表情を見れば分かる。
おそらくこいつはそういう演技はしない。
良くも悪くも直情的で、嘘が無い奴なんだ。
……だから
自分が悪いと思った相手にはとことん残虐になれるし。
可哀想と思った相手には情を掛けたりする。
実際、あのときこいつは
夏海はきっと俺に騙されている。
そういう態度を示してた。
……この男について考えたとき。
やっぱこいつ、俺の遺伝上の父親なんだな。
そう思わざるを得ない。
顔つきが俺が毎日鏡の前で見る顔……
それを思い出す以外の要因で。
……そんなことを考えるくらいの余裕が、今の俺にはある。
コイツの剣が見える。
どこを狙って斬りつけて来るか。
それを成すために、何をしようとしているのか。
事前告知を受けているみたいに思える。
俺は自分の腕を狙って来ている相手の斬撃を後ろに下がって躱しつつ
続けてサイドステップし、再び突っ込んだ。
「トベ!」
四戸天将の本命はこっち。
腕狙いの斬撃を避けるために後ろに下がって距離をとった俺に、ファイアーボールを浴びせる。
……こいつは魔道騎士なんだから、本気で戦う場合は攻撃魔法が来る。
当たり前だよな。
ヤツの突き出した手から発射される火炎球。
俺はそれを、突っ込むことで躱す。
その狙いが何なのか理解していたから。
「イケや!」
四戸天将のその声と同時に。
案の定、火炎球は俺にギリギリ直接当たらずに、俺の背後で爆発した。
任意起爆……
夏海が良くやるやつだ。
「なんやて!?」
俺に命中させて普通に着弾で爆発させたら、自分も巻き込まれるもんな。
俺はこの、俺にギリギリ当たらない軌道で撃ち出したファイアーボールが、俺の傍で任意で起爆されるパターンに気づいていたので、何も迷わず全力で突っ込んだ。
どうせ着弾させる気が無いんだ。
間合いを詰めるチャンスだろ。
そして俺は、二刀流を振るって四戸天将に斬りかかる。
2つの剣による斬撃。
攻めの二刀流は、幻惑と本命。
その2つが強みだ。
これは並列思考と相性がいい。
相手の反応を観察しつつ、攻め続ける。
袈裟掛け、薙ぎ払い、斬り上げ……
俺の剣を、四戸天将は冷静に対処している。
そこに余裕は感じなかった。
表情に、その集中と、焦りが出ている……
「ちぃ!」
その舌打ちの声を魔法の掛け声にしたのか。
俺の薙ぎ払いを躱した次の瞬間、四戸天将は飛行状態に移行した。
……フライトか。
そんなもん、俺だって想定しているよ。
機動力の上昇を考えたら、使わない選択肢無いもんな。
四戸天将は舞い上がり、俺を見下ろす位置にまで上昇した後。
俺に鋭い視線を向けて、吠えた。
「……やるやないか!」
その声に、俺に対する侮りはない。
こいつ、俺を余裕で倒せる相手だとは思えなくなったのか。
その態度に、俺は少しだけ満たされる。
だけど
「でもな!」
続いたアイツの言葉は
「それでもお前は俺には勝てんのじゃ!」
自分の勝利を確信した響きを持っていた。
――来る!
四戸天将は俺に視線を向けながら、空高く舞い上がり
そしてそこから、超速で突っ込んで来た。
その速さ、夏海より速いかもしれない。
フライトにも術者の熟練度みたいなものがあるのかね。
で
「喰らえや!」
その姿が急に掻き消えたんだ。
その瞬間
俺の後ろから斬撃が来た。
俺は……
後ろを振り向きながら、その背後からの斬撃を一刀で受け止めた。