第149話 決闘開始
「ハッ、久々やのう。カスから産まれたガキ」
四戸天将は俺に対して、凶暴な笑みを浮かべ
全く悪びれる様子もなく、そう言い放つ。
俺は
「……去年はどうも。今回はあのときのお礼参りだよ」
驚くほど冷静に、その言葉を言った。
なんというか……
こう言っちゃなんだけど
恨みを晴らすつもりじゃないな。
今の俺、去年の屈辱についてはホントはどうでもいいと思ってる。
こないだの中島氏の話を鵜呑みにしたわけじゃないけど。
たまたま、あり得ないほど運が悪かったんだなと。
それで片付けられる程度には整理がついてた。
たまたま俺たちが、レアなお宝「黄金の林檎」をゲットするための生贄に選ばれて。
その犯人が、運悪く逃走途中で追剥に遭った。
どんな偶然だよという不幸。
分からんだろ、そりゃ。
あのときの実害は幸い俺たちには無かったわけだし、だったらもう良いかなと。
そう思える程度には片付いている。
じゃあ、なんでこの男に一騎打ちを挑んだのか?
……そりゃ、意地だよ。
こいつにとって、俺が路傍の石で終わるってことが我慢ならない。
俺をこの世に生み出す一因になっておいて、その俺を空気か何かのように思われる。
単純に、ムカつく。
許せない。
……俺、そればっかりな気がするな。
同情されたくないという意地で迷宮探索者を目指し。
そして今、意地で強大な百戦錬磨の魔道騎士に挑んでる。
こいつに勝たないと、俺は自分の人生を生きられない気がするんだ。
俺の言葉を受けて。
四戸天将は
「まさかお前が上級職に辿り着くとは思わんかったで。……しかし……学者と戦士とはなぁ……」
俺を嘲る視線を向けつつ
「アホとしか思えんわ。……学者の能力なんて、死ぬ気で修行を積めばクラスで取る必要無い能力なんやで?」
ふーん、そうなのか。
この男の基準ではそうなんだな。
……別にどうでもいい。
俺は戦士の俺の上に積み上げるためにサブクラスに学者を選び……
その結果、上級職「勇者」になった。
俺はその選択を後悔して無い。
俺は四戸天将が見ている前で愛用の二刀……ただの迷宮産の長剣と、魔剣ニヒム……を抜いて見せる。
四戸天将はそれも
「……で、ニヒムかいな。それもやな。無駄ばっかりや」
鼻で笑う調子で
「ニヒムの切れ味は、剣術の奥義の『鉄斬』を身に着ければ、普通の剣でも再現可能や」
否定して来た。
コイツに言わせれば、魔剣ニヒムは魔剣じゃないらしい。
ニヒムの切れ味は、修行すれば再現できるそうだ。
……多分嘘じゃ無いんだろうな。
こいつはおそらく、バレたら恥を掻くような、そういう嘘は吐かない。
そして俺を見下しながら
「お前の獲得した能力は不要な下駄ばかり。おおよそ、頂点に立つ存在の選択じゃ……」
俺を否定する言葉を続けようとするけど
「あのさぁ」
そこで俺は四戸天将の言葉を遮った。
その瞬間。
四戸天将の怒りの感情、それが伝わって来た。
自分の言葉を遮られたのが気に障ったんだろう。
だが俺は全く臆さないで、平常心で
「……グダグダ言ってないでかかって来なよ。今度はそっちから」
あのときの意趣返しになるようなことを言ってみた。
俺のその言葉に
「……クソガキがぁ!」
四戸天将の目がつり上がる。
四戸天将は激昂し、腰に吊るしていた短剣の鞘から短剣を抜き
一振りし
……その形状を、短剣から長剣に変化させた。
こいつの愛用武器「ガイアソード」の特殊能力。
サイズを短剣から大剣にまで変化させられる魔剣……
「調子こくな! 何が勇者や!」
その姿は、まるっきり獣に見えた。
人の知性を持っているだけの、ケダモノ……
「思い知らせたるわ!」
そして獣のように俺に言葉を叩きつけ、魔獣のように襲い掛かってきた。