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第146話 この俺を舐めるなよ(四戸天将視点)

~四戸天将視点~



「あのクソガキが上級職になったぁ?」


 ……自分でも聞いた覚えが無い声が出た。


 それぐらい、意外やった。


 俺が上級職になったのは17才のとき。

 つまり俺と同じやないか。


 ありえへん。


 俺の血を引いてるかもしれへんけど、産んだんあのカスやぞ?

 ノータリンの、クソボケのアバズレ。

 どういうことやねんしかし。


「まさかチューさん、そいつをエンマに入れるなんて言いに来たんか?」


「……出来ればそうしたいんだがね……」


 チューさんは否定せえへん。

 なんやねん。


 エンマに誰を入れるかは俺の一存では決められへんことやから、エンマが決めたんやったら俺には何も言えんのやけど


 チューさんの顔には「そう簡単にはいかない」と書いてあった。


「なんか問題でもあるんか?」


 言いつつ俺は、覇王を口に含んで飲み下す。

 覇王独特の芋の香りと、アルコールが喉を焼く感覚を味わう。


 そんな俺にチューさんは


「……エンマ入りの条件に、彼はキミとの一騎打ちを望んでるんだ」


 ……は?


 そのチューさんの言葉を聞いたとき。


 俺は一瞬思考が停止して。


 続けて怒りが湧いて来た。


 ……それは、つまり


「……平たく言うと、俺に負けた場合、エンマに入ると言っとるのか? あのガキが望んでエンマに入るとは思えんし」


「流石理解が早いね」


 俺の言葉に頷くチューさんを見て



 俺は昔を思い出していた。


 俺はこれまでの人生で、身の程知らずのカスに舐められたら

 必ず思い知らせてやってきた。


 ……俺がこの世界に入ったのは、中学生で俺はこの世界以外で働けない状態になったからや。


 俺の通っていた中学は荒れとった。

 特に俺の世代は「暗黒の世代」と言われてて。


 酷い不良生徒がたくさんおったんや。

 そいつらは、自分より弱い奴を虐めて、金も奪ってた。


 ……俺は昔から親父に喧嘩の仕方を習ってて。

 そんな卑怯なクズどもをぶちのめしてやろうかと思ってたけど。


 他の奴らが「暴力はいけない」だとかなんとか言うから、耐えとったんや。


 でもあるとき我慢の限界が来た。


 その日、教室の隅でモヤシを小突いて愉しんでた不良に


「おい」


 そう一言声を掛け。


 ニヤケ顔で「何や四戸くん」そう言って振り返ってきたそいつの顔面に。

 渾身のパンチを入れてやったんや。


 するとそいつ。

 豚みたいな悲鳴をあげて倒れて


 そのときにそいつの目が潰れとった。

 メンタマが破裂したみたいになっとったわ。


 運が悪かったんやな。

 まあ、自分が蒔いた種やし。

 自業自得や。

 

 だから俺はその結果について何も思わんかった。

 悪いのはコイツやねんし。何が問題やねん。


 でもその後、問題になった。


 なーんもせんでカスどもをのさばらせていた雑魚どもが騒ぎ出したんや。

 酷い、そこまでしなくても、って。


 そんでそのあとで。

 ソイツの親が俺の前に出て来て


 ウチの子の目を潰すなんて!

 どう責任を取ってくれるんよ!?

 アンタ頭おかしいわ!


 そんなことをキーキー喚きよる。


 ムカついたから俺は、即座にそのクソ親の顔面に蹴りを入れたった。

 上段蹴りや。


 ……すると、そいつは脳障害を負った。

 脳みそが潰れて、起きられへんようになりおったわ。


 弱いのう。

 アホちゃうか?


 ……自分が悪いのに、ギャーギャー喚くなカス。

 俺を舐めるからそうなったんや。


 目が潰れたのは全部うちの子が悪いのです。

 育て方が悪かったことを反省いたします、なら分かるが。

 反省せえへんのやからしょうがない。


 一生寝たきりで生きていけババア。

 ええクスリや。親子共々。

 俺をイラつかせた罰や。


 ……でも、そんなことがあったせいで。

 俺は少年院に送られた。


 そしてそこを出たあと。

 俺の居場所は無くなっていた。


 親父が「もうお前とは縁を切る。手に負えん」とか言って来て。

 辛かったわ。


 俺は間違ってへんのに。


 そうして中学を出た後、俺は自活するしかなくなった。

 親の責任がどーとか言えば、成人するまでは何とかなったかもしれへんが。


 そういうのは、俺の信条に反する。

 苦しいときに法律やクニに頼るなんて。

 まるっきし雑魚ムーブや。


 だから親父がそういう以上、俺は自活せにゃならんのや。


 なので俺は、迷宮に行くしかなかったんや。

 中学しか出てないガキがいっぱしの大人になるには、それ以外あれへんやろ。


 あとはもう、職業的な犯罪者になるしかあれへん。

 それだけは嫌やったからな。


 でも、今はこれで良かったとおもとる。

 あっという間に上級職持ちになって、エンマに入れて貰えたし。


 エンマはええ。

 存在自体がイライラするドブカス共を裁くことを仕事にできる。

 その仕事は年間数件あるかないかやから、数は少ないけどそこはしょうがない。


 それの面倒な調査は他の奴が全部やってくれるし。

 美味しいところだけ存分に味わえるんや。

 俺のチカラを示せる、まさに天職……



「四戸くん?」


 すると

 チューさんは


 俺に訝し気な目を向けて来た。

 俺は誤魔化すように


「悪い。ちょっと意識が逸れたわ。……一体何の上級職なんや? そのガキ」


 少し慌てた感じでそう訊ねる。


 俺の頭の中では、僧侶を取って聖騎士、召喚士を取って忍者。

 その2つが予想としてあった。


 ……でももし


 俺と同じ魔道騎士やったら、舐め腐ってる。

 絶対にブチのめす。


 魔道騎士で俺は誰にも負けへん。

 その自負があるからな。


 それで勝つ気やったんなら、俺を舐めとるってこっちゃ。

 そんなん、処刑もの。五体満足でおれると思うな。


 そんなことを、俺は考えとった。


 けど


 チューさんの言ったことは俺の予想を超えとったわ。


「……学者と戦士。上級職としての名前は『勇者』だそうだ」


 ……ゆうしゃあ?


 それも、学者と戦士やて……?


 聞いたことも無い上級職名。

 それにその組み合わせ……


 俺は数秒、硬直した。


 そしてその後


 思わず吹き出して。

 笑いが止められへんようになった。

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更新お疲れ様です。 なるほどそんなバックボーンがあったんですな四戸。産まれながらの悪…って訳ではないのは理解しましたが、クズになるべくしてなったという印象しかないですね申し訳ないですが。 以前のご返…
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