第145話 なんやて?(四戸天将視点)
~四戸天将視点~
夜の7時過ぎ。
ピンポーン、と。
俺のワンルームマンションのインターホンが鳴った。
俺は作業の手を休め、訪問者をモニターで確認する。
モニターの中には……
「なんやチューさん? 時間外労働やん」
モニタの中には、俺の同僚のチューさんがいた。
チューさん……
外見は大人しそうな男やけど、腹の座り具合はなかなかのもんで。
俺らのうちでは外に話をしにいく……交渉役みたいな仕事をしとる男。
中島やからチューさん。
俺のいた小学校であだ名をつける際、そういう傾向があったから俺は彼をそう呼んどる。
『四戸くん。今、良いかな?』
モニタの中のチューさんは、俺にそう言った。
俺としては
「ええよ。これからメシやから、ながらになるけどそれでもええなら」
メシどきに来るなや。
迷惑やな、と内心思いつつ。
許可を出す。
チューさんはテレポートが出来るから、鍵は開けんでもええ。
だから俺は許可だけ出してほっといた。
そのまま俺はローテーブルに焼いた肉を盛った皿を並べ、お気に入りの焼酎の瓶を用意する。
良いラム肉と豚肉、牛肉が手に入ったから。
これはもう、呑むしかないわな。
……まぁ、酔われへんけどな。
俺には毒は効けへんし。
そして一式揃ったときに
「こんばんは」
チューさんが俺のワンルームに入って来た。
「で、メシどき邪魔して何の用なんよ?」
俺はチューさんを前にして。
コポコポと、九州の方の芋焼酎「覇王」をなみなみと
拳大の丸いグラスに注ぐ。
そして俺はローテーブル前の座椅子に腰をどっかり下ろして、グラスを傾ける。
俺の目の前に立っているチューさんは
いつものニヤニヤ笑いを浮かべつつ、俺に
「キミが去年の夏ぐらいに受け持ったマトの少年を覚えているかい?」
……去年の夏ぅ?
俺は自分の記憶を探る。
何かあったような……?
しばらく考えて
あっ
「吉常天麻のことを言っとるんか?」
心底忘れたいことやったから、だいぶ苦労したわ。
俺の汚点やからな。
カスに騙された証というか……
てっきり、堕胎して生まれなかったと思っていたのに。
意地汚く生き残りよってからに。
まさかあんなもんになってるなんて。
「それ以外無いだろ。僕らの仕事はそうそう無いのだし」
俺の答えに、チューさんは呆れを含んだ声でそう返して来る。
ムカつくが、しょうがない。
確かに忘れてしまうほど、たくさんの仕事は受けてへんからな。
俺らは。
言い訳したかったけど、口外できへん理由も含まれとるし。
俺は黙った。
そして
「ど忘れや……で、そいつがなんかやったんか?」
あのカスのヒリ出したガキやし、
絶対そのうちなんかやると思ってたから。
特に驚かへんかった。
もし「吉常天麻が今度こそ迷宮内殺人をやった」って言われたとしても。
しかし
チューさんの言ったことは、俺の予想を遥かに超えとったわ。
「……彼ね、上級職になったんだよ」
……ハァ?
なんやて……?