第144話 一蓮托生だよ
「えっ」
夏海は流石に動揺している。
何で俺がエンマと連絡を取るのか分からないんだろう。
まぁ、無理も無いけどさ。
ハッキリ言って、俺が言おうとしていることは普通じゃないから。
俺は
「四戸天将と一騎打ちして、アイツが勝てば俺がエンマに入るという取引を持ち掛ける」
彼女の目を見つめて、ハッキリとそう口にした。
その言葉に、夏海の瞳が揺れた。
エンマは構成員が少ない。
だから俺の提案は多分通る。
そして四戸天将は俺を舐めていると思うから、きっと二つ返事で受けて来るはずだ。
そんな俺の言葉に
夏海は真剣な目をして
「……勝ち目があると思ってるんだね」
そう問う。
それに俺はこう返す。
「当たり前だろ」
当然だ。
勝算が無いのに、一度完膚なきまで負けた相手に再戦なんて挑まないよ。
いくらなんでも俺はそこまで馬鹿じゃない。
俺と夏海は暫く見つめ合い。
そして
「……分かった」
そう言って夏海は頷き
「イッコだけ、約束して」
そう、呟くように言う。
俺はその言葉に
「……何を?」
そう返す。
彼女は
「……あなたが負けたら、私もセットでエンマに入る。そう約束して」
その言葉に
……今度は俺が動揺した。
俺一人なら、俺の責任だけど
一蓮托生ってことか……
俺と同じ運命を彼女は望んでる。
物語の主人公なら、ここはヒロインにそんな約束は出来ないって言うのが正しいのかもしれないが
俺は
「分かった。負けたらセットだな」
……開き直った。
負けなければ良い。
それだけの話だ。
「まぁ、負けないけど」
だから俺はそう言って。
自分のスマホと、財布を取り出した。
……財布にさ。
あのとき……岡山で出会ったエンマ構成員の中島とかいう男。
あの男の名刺を仕舞っていたんだよ。
名刺に書かれている電話番号を入力する。
発信する前に電話番号を数回見直した。
別に間違っても間違い電話になるだけで問題は無いけど、これは重大な提案を持ち掛ける通話だ。
入力電話番号を間違えたら、それはあまり良くない。
もしそうなったら、運命が俺に味方してくれない気がする。
「いくぞ」
そう、一緒に俺のスマホを見守っている夏海に呼び掛け。
彼女が見守る中、俺は発信をタップした。
呼び出し音。
その間に、俺は通話をスピーカーモードに切り替える。
数回のコールの後。
『はい、もしもし誰ですか?』
……繋がって、男の声が応対に出る。
聞き覚えがあるから、多分間違いない。
「中島さんですか? 頼朋です」
名乗る。
すると
『おや、頼朋くん。一体何の御用ですか?』
中島の声に驚きが混じった。
まさか連絡を取って来るとは思っていなかったのかもしれない。
そりゃな。
1回理不尽に殺されかけたのに、連絡を取って来るとは思わないよな。
そう頭の片隅で思いつつ、どう取引を切り出すか
少し、迷った。
時間にして1分も無かったとは思うけど。
そして俺は結局
「……実は、賭け試合をお願いしたいんです」
直球で言うことにした。
多少強引でも、エンマは俺の提案を受けるだろうし。
その言い回しで恥を掻いても、それはこの場限りのことだ。