第141話 勧誘その2
上級職を取得したら、第8階層での狩りが驚くほど簡単になった。
大概のモンスターが、夏海の無限魔法を併用した魔法行使で壊滅状態になる。
そこで残ったのを、俺と榎本さんで殲滅し。
怪我を負った場合は速やかに2人のヒーラーからの治療が受けられる。
そんなこんなで、オークション2回目に突入。
そして1回目のオークションの結果が返って来た。
その結果は3000万円超。
4等分し、1人頭750万円超……
「はわわわ……」
教室の片隅で。
隣で夏海が、自分の口座に振り込まれたお金の額をスマホで見ながら、真っ青になっていた。
学校で通知を受け取ったんだよ。
口座に振り込みがありました、って。
「天麻くん、758万円だよ……758円じゃないんだよ……!」
スマホに表示された振込金額を見て、夏海が泡を食っている。
俺はその倍で、俺のスマホには1500万円を超える金額が振り込まれたことを伝える通知が来ていた。
……まあ、ビビるよな。
そんな大金、俺たち見たこと無いし。
まあ、とりあえずだ。
俺たちは手続きを引き受けてくれた榎本さんにお礼のメールを打つと。
その日の放課後、アドベンチャラーズに向かった。
「……生活スタイルを急激に変えるのはNG行為です。怪しい勧誘行為にも気を付けて……」
急激に収入が上がった場合に発生する各種問題……
資産との向き合い方、税金問題、防犯問題……
色々な指導を受けにアドベンチャラーズに行ったんだ。
すぐさましなきゃいけないしな。
訊いた話だけど、そういう情報って何故か洩れるそうで。
怪しい宗教勧誘とか、詐欺師だとかが、まるで甘いものに群がる蟻のように集まって来るらしい。
「ありがとうございました」
俺たちはアドベンチャラーズの会議室から出るときに、収入上昇問題に対する指導員を務めてくれた職員さんに頭を下げる。
そして会議室のドアをバタンと閉じ。
そのままアドベンチャラーズの建物の外に出ると。
いきなりだった。
「えっと、はじめまして」
いきなり、女の人が駆け寄って来たんだ。
アドベンチャラーズの外で駆け寄って来た女性は。
……見たところ20代前半で。
印象は……
なんか、嫌な感じだった。
見た目は悪くないんだ。
黒髪ストレートヘアの長髪で。
別に太ってもいない。
化粧っけは高めだけど、その技術は高そうに見える。
服装は若者系で、白いセーターに黒いズボン、そして茶色のブーツ。
センスは悪いと感じなかった。
でも……
何だか嫌な感じがした。
「……なんでしょうか?」
夏海が女性に訊ねる。
だけど女性はそれを無視し
「キミ、高校生で下層領域に入り込んでる人でしょ?」
下層領域とは?
それは一般に、第6階層以降の階層を指す言葉。
つまり「迷宮1本で食べていくことが実現できる」領域を指す言葉だ。
俺は一瞬、俺たちが上級職を取ったことがどこかからバレたのか!? そう思い、内心焦ったけど。
よくよく考えると、この女性は下層領域としか言って無い。
俺は動揺を押し殺し
「……何で知ってるんですか?」
そう訊ね返した。
するとその女性は笑顔で
「そんなの、第4階層で高校生を見た、って情報が突然消えたら予想つくじゃない」
……なるほど。
俺たちは高校生で目立つから、迷宮第4階層での目撃情報が皆無になったら
死んでないのであれば、第5階層に上がったんだろう。
そしてもしかしたら、第6階層に行ってるかも……?
5階層に上がれれば、6階層に足を踏み入れるのは可能だからね。
あくまで、足を踏み入れるだけは、だけど。
だから可能性としてはそれもありだわな。
あと、よくよく考えると最近テレポートで登校しているし。
そこから「高校生でランク5に到達した人間がいる」という情報が回っている可能性も十分ある。
そこから、高校生の迷宮探索者=ランク5クラス保持者である可能性。
その発想も十分ありだ。
要はこの人、そこで俺に鎌をかけたのか。
そして俺はそれに引っ掛かったようだ。
……俺以外、夏海が来るまでは高校生で迷宮探索者をしてるようなもの好きは居なかった。
この人が何かの偶然で俺の存在を知っていたら、その可能性を考えても変じゃないな。
その可能性を考えて、この人は鎌をかけたんだ。
当然、少しだけ気分は悪かったけど。
俺はそれを顔に出さずに
「……それで?」
話を早く切り上げたいから。
俺はそう先を促した。
するとその女性……いや女は
俺を見つめて
「私たちのところに来ない? 女の子だけの5人パーティなんだぁ。これからメタルタイガーを倒そうとしてるんだけど……キミが仲間になってくれたら百人力だなーって」
……ハァ?
そんな、寝言を言って来たんだ。