第14話 はじめての宝箱出現
俺たちは今日から、2階層に活動の場を移す。
1階層での戦闘練習で、俺と霧生のコンビネーションはだいぶこなれてきた。
霧生の「エネルギーバレット」や「スリープミスト」の使用もこなれて来て、魔法を撃つための体力もだいぶついてきた。
今だと8回くらいまで連打できるようになった。
そろそろ、2階に移っても良い頃だろ。
「ね、吉常君! 2階層って、1階層よりモンスター強いんだよね? 楽しみだよ!」
霧生が、何だか好戦的なことを言っている。
格好はジーンズと黒いTシャツ、運動靴とリュック。
最初とあまり変わりない。
「強いっつっても、ホブゴブリンとダンジョンウルフくらいだし。油断しなきゃいいから」
俺は剣を片手に、軽く答える。
霧生の前向きな態度は、正直ちょっと嬉しい。
こっちも戦意が高まるんだな。
すると通路の先の方から足音がした。
俺は剣を構え、霧生に目配せする。
あの角から来ている……!
「来たぞ。頼むぜ」
その言葉から数秒後。
4体のホブゴブリンが角から姿を現した。
成人男性サイズの緑色の怪物。
体格のいいゴブリンだ。
「霧生!」
俺が小さく叫ぶと、霧生が素早く手を上げ、仕事をしてくれた。
「スリープミスト!」
薄紫の霧がホブゴブリン3体を包み、ガクンと膝をつかせて眠らせる。
残りの1体が、一瞬混乱して硬直するが、何が起きたのか理解してその手の槍を構えて向かってくる。
それに対して
「よし、俺の番だ!」
俺は槍を持ったホブゴブリンの突きを躱す。
躱しざまにホブゴブリンの腕に斬り付け、続く刃で首を斬り付けて仕留めた。
すると
「吉常君、寝てるやつ!」
霧生の助言に反応し、眠った3体に素早くトドメを刺す。
首を突いてトドメを刺していく。
そして死亡したホブゴブリンの死体が、シュッと塵になり、煙のように消滅していく。
「ふう、いっちょあがり」
俺は剣を引っ提げてそう言い、笑みを浮かべた。
霧生が「やったー!」と小さくガッツポーズする。
その瞬間──
シュン、と。
目の前に、木製の宝箱が突然現れる。
出現時に錆びた金具がカチリと音を立て、まるで俺たちを誘うようにそこに鎮座してる。
「え、宝箱!? ホントに!? ゲームみたいじゃん!」
霧生が目を輝かせ、飛びつく勢いで近づく。
「お、おい、落ち着け!」
俺は慌てて霧生の肩を掴む。
1~2階層じゃ宝箱はほぼ出ない。
出現率が上がり、まがりなりにも多少稼げて来るのは3階からだ。
ホント、珍しい。
……だけど
「宝箱には罠がある場合がほとんどだ。知ってるだろうけど」
……まぁ、ここの階層は罠の無いタイプの宝箱もあるんだけどな。
それは今はどうでもいい。
問題は罠がある可能性があること。
それだけなんだから。
……あー、でも。
……俺たちの2人パーティー、ちゃんと宝箱の罠解除ができる奴がいない。
罠解除はクラスの能力の外なんだ。
魔術師のクラス2の魔法で、罠を看破することはできるんだけど……
解除となると話は別。
専用のリアルな技能が要る。
……大きな声じゃ言えないんだけどさ。
錠前破りに通じる技能らしいんだよね。
ピッキングだとかサムターン回しとかそんな感じの。
どの辺が通じるのか俺は全く分からないんだけどさ。
……だからまぁ。
宝箱の専門家を名乗ってる人って……
元犯罪者が多いって噂なんだよな……
どうするかなぁ……?
それを実は、ずっと悩んでる。
「吉常くん?」
……ハッとした。
しまった。
つい考え込んでしまった。
俺は
「ゴメン、ちょっと下がって」
俺は霧生を後ろに下がらせ、剣を構えたまま宝箱に近づく。
深呼吸して、意を決する。
「開けるぞ」
俺は宝箱の蓋に手を掛けて。
開いた。
宝箱の蓋が軋みながら開く。
その瞬間──
ビュン、と。
拳大の石が、俺の顔めがけて飛んできた。
石礫の罠だ。
咄嗟に頭を振ると、石が耳元を掠めて後ろの壁にすっ飛んで行く。
「うわっ、なに!?」
霧生が驚きの声を上げた。
……この階層だと罠はあってもこれ1択なんだよな。
だからまぁ、俺でも解除できるんだけど。
「さて、中身は……」
罠解除が済んだから、宝箱の中を覗く。
中には、透明な瓶に入ったポーションが3つと、小さなナイフ。
刃渡り8センチくらいの、多分投擲用のナイフだ。
「……ポーション3つと、小さいナイフか。ナイフはこのサイズじゃ使い物にならないし。売るか」
俺は冷静に判断する。
「ポーションは1回鑑定に出して、効果次第で俺たちで使おう。ヒーラーがいないんだから、回復手段は貴重だし」
「うん、賛成! でも、宝箱ってほんとドキドキするね!」
霧生が楽しそうに、ポーションの瓶を手に取って眺めてる。
「……今日はいきなりツイてたな」
俺はそんな霧生の様子に少し嬉しいものを感じた。