第138話 転移剣
「いくわよ!」
榎本さんの言葉に俺たち2人は頷いた。
実際に行ったことがない場所に転移する場合は、その場所を集中的に見ないといけないらしい。
できることなら、見ながらがベスト。
なので夏海は、ワイバーンの背びれに掴まり自分を支えることが出来ない。
俺に支えられ、眼鏡を外したままで、遠くの塔の頂上を凝視してる。
榎本さんは被弾の恐れはあるが、塔に向かってワイバーンを飛ばす。
ぐんぐん近づいてくる。
目算……400メートル。
狙撃って常識的な限界距離っていくらなんだっけ?
調べておけば良かったと、軽く後悔した。
創作物だと2キロの距離を狙撃できるキャラクターなんか、ざらに出て来るけどな。
現実でそこまではさすがに無いくらいは、俺でも分かる。
銃弾を避けるために、ワイバーンが変則的に飛行する。
そのせいで、激しい揺れが起きる。
クラス戦士を持ってる俺は平気だけど、サクラがかなり必死だ。
じっと背びれを掴んで、ワイバーンを凝視してた。
多分、翼を撃たれたら即座にリザレクションを使うことだけに集中してるんだ。
……あまり無理は出来ないな。
そして
バスッと、聞きたくない音……ワイバーンの翼が撃ち抜かれる音が耳に届く。
そのとき、塔までおよそ300メートルまで近づいていた。
その瞬間
「チュエンワンフーフオ!」
サクラの魔法が発動した。
同時に
「天麻くん今!」
夏海の合図。
同時に俺はワイバーンから跳躍する。
背びれから手を離し、塔に向かって足を踏み込む。
その瞬間だ。
「テレポート!」
夏海の魔法が発動した。
魔法の発動に伴い襲ってくる眩暈。
一瞬のそれが消えた後。
俺たちは、見知らぬ石造りの建築物の屋上に居た。
そこは直径20メートルくらいの円形の屋上で。
中央部にらせん状の下り階段が見える。
そしてその傍に、6本腕の黒い人影……
身長3メートル40センチ程度の、マネキンみたいな存在がいた。
その手には、ライフル銃みたいに銃身が長い拳銃みたいなものが6丁握られている。
こいつがシャドウガーディアンか。
そいつはこっちに背を向けて、バスバスと空に向かって発砲している。
まだ俺たちが転移したことに気づいていないらしい。
遠くにいる榎本さんたちを狙撃するのに集中してるようだ。
……今だ!
俺は夏海から離れ、即座に踏み切った。
今出せる全力の力で、弾丸のようにシャドウガーディアンの背中に突っ込んでいく。
この踏み込みにパワーチャージを乗せたかったが、パワーチャージは発動前に瞬発力を増強させたい箇所を意識して、力を溜める必要がある。
その時間が無い以上、しょうがない。
――間に合え。
俺は腰にぶら下げているニヒムに手を当てる。
二刀流の指導を受けるときに、ついでに習った居合術。
それを使おう……
速さを意識する状況。
居合術はうってつけ。
俺の目に、シャドウガーディアンの背中が大写しになる。
集中力が限界まで高まった。
あと3歩。
俺はニヒムの鞘の鯉口を切る。
あと2歩。
俺は抜刀動作に入った。
居合の速さは抜く前に剣を振りかぶったのと同じ状況が既に作られていることにある。
あと1歩。
俺の剣が抜刀され、横殴りの斬撃に。
そして
次の瞬間、俺のニヒムの刃によって。
シャドウガーディアンの胴体が上半身と下半身に分断され。
瞬時に塵になって消え去った。