第136話 塔の守護者
ワイバーンの翼が破れた。
その事実を俺の脳が理解した一瞬後。
ぐらり、とワイバーンの身体が傾く。
落ちる――!
心臓が萎縮し、背筋が凍った。
その瞬間俺は、ここから皆が助かる方法を考えた。
夏海のフライトが間に合えば、助かる。
だけどそれをこの状況で頼めるのか……?
夏海も落ちる恐怖で魔法の集中ができないかもしれない。
ここの高さはおよそ地上30メートル。
そのまま落下したら間違いなく死ぬ。
この状況で俺ができることは――
「チュエンワンフーフオ!」
だけどその前に。
サクラがリザレクションの魔法をワイバーンに掛けたんだ。
リザレクションは、あらゆる怪我を治す魔法。
負傷部位が自然治癒の無い部分であったとしても関係ない。
究極の回復魔法だ。
ワイバーンの身体が輝き、瞬く間に翼の穴が塞がって。
復活したワイバーンが大きく羽ばたく。
そのため動きが急激に速くなり、俺たちは背びれを強く掴んだ。
そこで
「サクラさんありがとう!」
「助かったわ!」
「サクラさんナイス!」
口々にサクラへの感謝を口にし。
そして
「……多分塔の方から狙撃を受けているわ。良く見えないけど」
榎本さんが。
緊張した声音でそう、今何が起きたのかを教えてくれた。
「狙撃……狙撃ですか」
てことは、あれは銃撃だったのか。
塔にそんなモンスターが……?
「霧生」
確認してくれないか。
そう言おうとしたとき。
「ホークアイ!」
そして
「アナライズ!」
……2つの魔法を使用して、夏海はその前に動いてくれた。
ホークアイは、ランク5の魔術師系魔法で。
鷹のような視力を得る魔法。
前に聞いた夏海の説明によると、常人のおよそ10倍くらいになるらしい。
魔法を使った後、見えにくかったのか夏海は片手で眼鏡を外し。
それを手早く胸ポケットに仕舞い。
「……なんとか見えるよ。6本腕の、真っ黒い人間型モンスターが居る……名前はシャドウガーディアン」
自分の見たものを教えてくれた。
その言葉に
「6本の腕に装備している銃で、塔に近づく存在を狙撃している守護者……だね」
俺は戦慄する。
マジかよ。
そんなものが塔に居るなんて、どうしたらいいんだ……?
そう思い
「ワっ」
背びれを掴む手を滑らせてしまったサクラに手を伸ばし、咄嗟のサポートをした。
彼女の肩を掴んで、抱き寄せて落ちないように支える。
彼女の肩は細くて。
迷宮探索者の学校出身者として、基礎体力を鍛えぬいてる女性だけど。
そこは女性らしいと思う。
って、それは今はどうでもいい。
なんだか夏海の視線が痛い気がするし。
それよりも。
……狙撃ってことは、近づけば近づくほどその正確性が上がって来るはず。
そうなると、飛行状態で飛んで行くのは無理になって来るだろ……?
「ありがとうございマス吉常サン」
「なぁサクラさん」
ここにちょうど学者持ちの人間がもう1人いる。
俺は咄嗟に支えた姿勢のままに、サクラに訊ねる。
サクラは何故か少し熱っぽい視線を俺に送って来てるように見えた。
まぁそれは今はどうでもいい。
「ここは引くべきだと思う?」
……これを訊く方が大事だ。