第135話 空の旅は
ワイバーンは非常に乗りやすかった。
背びれがさ、掴みやすくて。
加えて榎本さんのワイバーンの飛ばし方がなかなか上手くて。
大きく揺れたりしなくて、快適そのもの。
落ちないように両手でワイバーンの背びれをしっかり掴んでおけば、安定だ。
なので
「銀行口座作ったよサクラさん」
「ホントデスカ!」
俺の言ったことにサクラは表情を明るくさせ、弾んだ声で返して来る。
あのエンマ勧誘の後、俺は地方銀行の口座を複数作り、そのうち1つをサクラ用にしたんだ。
そしてそのキャッシュカードは今日持って来た。
……もしかしたら迷宮にカードを持ち込むと、カードが壊れる恐れはあるんだけど。
そのときはそのときだ。
第一、これは間違いなく違法行為だから。
カードのことは固執するようなもんでは無い。
ダメだったら諦める。
これが一番いい。
最悪、俺が彼女のATM代わりに出金要請を受ける役割を引き受ければ良いわけで。
そんなことを考えつつ俺は
「一応、今日カードを持って来たから、あとで渡す。暗証番号もコミで」
そう伝えると
「ありがとうゴザいマス吉常サン!」
本当に彼女は嬉しそうだった。
……ぶっちゃけ、彼女は金の要らない生活送ってるよなって思うけど。
そこを決めるのは彼女だからな。
彼女はランク5になって
人体欠損も治せてしまう回復魔法「リザレクション」
飢餓を癒す「アンブロシア」
そして、魔術師系魔法のフォースブラストに対抗する魔法……対爆発防御魔法「フォースプロテクション」
これだけ習得したはずなんだ。
なので、本格的に金が要らない。
食糧を買う必要すらなくなったからだ。
でも、人は食糧を手に入れるためだけに生きてるわけじゃ無いしな。
「おふたりにお土産もあります。黍団子」
そこに。
夏海が会話に加わって来た。
一緒に選んだんだよな。
榎本さんとサクラに何かお土産を買おうって。
お土産の話を聞き2人は
「へえ、黍団子」
「黍団子、何デスカ?」
「岡山県の名物よ」
そんな会話をしている。
名物……?
まぁ、駅で大々的に売ってるわけだし。
そういう見方もあるのかな……
2人が喜んでくれてるのを嬉しく思いつつそんなことを考える。
榎本さんは黍団子が岡山県の名物である理由……桃太郎の話をサクラに語った後
「そういえば、任せて貰っていたオークションの手続き。ちゃんとやっといたから」
落札されてお金が入ったら、メールするわね2人とも。
そんなことを伝えられる。
……俺たちはあの、大量に手に入れた若返り薬と、全快薬をオークションに出品した。
そしてそれは、俺たちのパーティで唯一の大人である榎本さんにお願いしたんだ。
その手続きがちゃんと終わったらしい。
一体いくらで売れるんだろうか……?
そこを思うと、ゾクゾクする。
そんなこんなで、空の旅は快適だった。
時間にして10分ちょいだろうか。
途中、遠くに巨大な鳥のモンスターが舞っているのが見えたけど、テリトリーには入らなかったのか襲っては来なかった。
俺たちの目の前に、あの白い塔が近づいてくる。
白い塔は5階建てに見えた。
窓が縦に5つあったんだ。
そしてその頂上に……
黄金に輝く何かがある。
あれは……
ハイクラスクリスタル……?
俺の気持ちが一気に上がり、興奮で息が荒くなった。
あれが迷宮探索者の最終段階への鍵……!
あれに触れれば、上級職が取れる。
この日本で、現在たった24人しかいないという上級職に……!
そう、俺の心がいっぱいになったときだった。
突然
チュイン、という音がした。
その数瞬後に
「えっ?」
バスッって音がして。
俺たちが騎乗しているワイバーンの皮の翼の皮膜が、何かに突き破られて。
大きな穴が開いたんだ。