第133話 必要悪
エンマの奴らが俺たちに接触して来た。
奴ら、上級職になる可能性がある人間には接触するのがルールだと言っていたけど……
「榎本さん、エンマが来ましたか?」
その次の週末。
迷宮探索のパーティをする日がやって来たとき。
俺は榎本さんと合流したときに確認したんだ。
榎本さんは渋い顔で
「ええ、来たわね。しつこかった」
だいぶ説明されたわ。
エンマはなり手が少ないから、なってくれたら好待遇を約束するとか。
色々と。
……本当に嫌そうな顔で語ってくれる榎本さん。
やれ、現在の日本の上級職持ち迷宮探索者は24人しかいなくて。
うちエンマ構成員は9人しかいないんだとか。
エンマの創立者は、最初に上級職を取得したパーティのリーダーだった男だとか。
榎本さんはウンザリした様子で、そんなことを語ってくれた。
俺たちのところに来た中島という男は、わりとアッサリしてたんだな。
榎本さんの表情からすると、だいぶ食い下がられたみたいだ。
でも
「……お金のために人殺し集団に入る気なんて無いわ。当たり前よね」
榎本さんも断ったみたいだ。
ホッとする。
しかし
「……ですけど、彼らがいないと迷宮内の治安が悪化するって主張、否定できないのが嫌でした」
俺は思わずそこを口にする。
迷宮内の犯罪を表の世界が裁けないから、何らかの抑止力が必要で。
それが
迷宮内で犯罪行為をしたら殺すぞ?
その際、被疑者の申し開きは一切聞かないからな。
そういう殺し屋集団だっていう話。
……俺は代替案が浮かばない。
だから腹は立つけど、否定はできないんだ。
迷宮内犯罪が起きるたびに一応犯人とされた人間が処刑される。
それは確実に、これから迷宮内犯罪に踏み込もうとする誰かに対する警告になる。
もし犯行がバレたら確実に殺されるぞ、っていう。
そして巻き添えを食うのを恐れて。
真犯人周りの内部での告発も増えるだろうし。
いろんな意味で、迷宮内の犯罪が抑止されるかもしれない。
一応「犯人は処刑している」っていうことが。
意味は少し違うけど、殺一警百ってやつだ。
1人を惨たらしく殺して、100人の敵に警告する。
元々は中国の言葉だったかな。
俺のそんな言葉に、榎本さんは
「……そうね。だったら犯罪野放しで良いんだな? って言われると……否定はできないわ。良い気分じゃないけどね」
そう、同意の言葉を返してくれた。
女性迷宮探索者は特にそうなりそうな気はする。
この迷宮に入ったときは。
入って、クラスを取得するまでは。
女性というだけで最底辺みたいなもんだしな。
下手するとゴブリン1匹に負けかねない。
だからエンマは必要悪みたいなもんかもしれない。
そんな榎本さんの言葉に
「……私も天麻くんに出会わなかったら、今よりずっと苦労してたと思うから」
感情では否定したいけど、恩恵は受けているはずなんですよね……
そう呟く夏海も、複雑な思いを抱いているみたいだった。