第13話 はじめての魔法
迷宮に入って俺たちは
「今日の獲物はゴブリンかスライムだ。スライムなら動きが鈍いから、うってつけの練習相手だと思う」
俺が言うと、霧生が「分かった!」とグッと拳を握る。
そしてしばらく進むと、緑色の不定形生物が通路の隅で蠢いてるのが見えた。
スライムだ。
「あれだ」
俺は剣を構えつつ、霧生に目配せする。
「うん! 行くよ!」
霧生が前に出て、両手をスライムに向ける。
「エネルギーバレット!」
霧生の掛け声に応じて、拳大の青白いエネルギー弾が、霧生の手から飛び出す。
それがスライムに直撃し、不定形の身体が震える。
「よし、いいぞ! 畳み掛けろ!」
俺は後ろで声を掛け、見守った。
「エネルギーバレット! バレット! バレット!」
……魔法って、射程は声と視線の届く範囲らしいんだよね。
俺は魔法使いクラスじゃないから他人からの受け売りだけどさ。
声が聞こえない位置、目の届かない位置には魔法は掛からない……らしい。
だからまあ、魔法使いを拘束する場合は多分目隠しをすれば大丈夫……だと思う。
やったことは無いけどな。
ちなみに、魔法の使用について、その掛け声は何でも良いらしいんだわ。
今、霧生が連打しているのはエネルギーバレットだけど、ぶっちゃけ「覇ァ!」でもいいそうだ。
ただ、魔法名を叫んだ方がイメージしやすいらしいらしくって、大概の魔法使いはそうしてるみたい。
大事なのは魔法を使うという意志と、声と、視線。
この3つらしい。
霧生が次々にエネルギーバレットをスライムに撃ち込んでいる。
そのダメージでスライムがグチャグチャに潰れていく。
そして6発目でとうとうスライムが塵になって消滅した。
「やった……!」
霧生は魔術師として初勝利を迎えた。
だが……
彼女は膝に手をついて、息を荒くしていた。
「うっ、なんか……キツい……!」
うん、バテてんね。
そうなると思ってたけど。
「魔法って、最初は連続で5~6発が限界だってさ。その辺が普通だろ。上出来上出来」
そう言いつつ俺は剣を振り、霧生が倒していない個体を剣で斬って倒す。
一撃で消滅するスライムたち。
「前にバイトで一緒にパーティーした魔術師の人は、9回連続で魔法撃ったらグロッキーだった」
「え、頑張れば9回もいけるってこと?」
霧生が、息を整えながら目を輝かせる。
「そだな。鍛えりゃ伸びるハズ。回数も威力も」
俺は肩をすくめて答える。
霧生、なんか楽しそうに「ふんふん」と頷いてる。
その日は、戦っては休み、休んだら戦うの繰り返しだった。
さらにスライムを3体、ゴブリンを6体仕留めて、霧生も魔法の感覚をだいぶ掴めてきたみたいだ。
ゴブリン戦じゃ、スリープミストで6体を綺麗に眠らせ、俺がそいつらを仕留めるコンビネーションも決まった。
そして夕方近く、迷宮を出る頃には、魔法の使い過ぎで霧生はヘトヘトになってたけど、顔は満足げだったよ。
霧生は笑顔で
「吉常君、今日、すごく楽しかった! やっぱり迷宮って楽しいね!」
そんなことを言ってくる。
「……そりゃよかった」
そう言い俺は苦笑するけど。
内心、俺も久々に楽しかった気がする。
……他人と繋がるって、やっぱ大切なのかもな。
アドベンチャラーズで預けた荷物を受け取り、霧生と店の前で別れる。
「じゃ、また月曜日な。疲れを残すなよ?」
「うん、しっかり休むから!」
そう言い、去っていく彼女の後姿を見つめて。
俺はこの関係がずっと続いて欲しいなと。
ちょっと、思ってしまった。