第128話 テレポート
俺たちはランク5になった。
この上に、上級職。
そこまで行ければ……届く。
自宅マンションで。
ピンポーン、と。
外のインターホンが鳴った。
マンションエントランス前の方に訪問者は居なかったはずなんだけどな。
この場合は……
インターホンのモニターをオンにすると、玄関ドアの前に夏海が居る。
……テレポートしてきたんだ。
彼女、テレポートに慣れる意味と実用目的で。
こうして朝に俺を迎えに来てくれるんだよな。
「おはよう夏海」
『おはよう天麻くん』
俺は既に準備を整えていたので。
鞄を持って外に出る。
夏海はさっきモニタで見た通り、セーラー服にリュック姿で待っていてくれる。
「行くよ」
彼女は出て来た俺の手を取って
「テレポート!」
その声と同時に。
俺の意識が一瞬途絶え。
次の瞬間、学校の校門前に居た。
……かなり似てるんだよね。
迷宮に入るときの感覚と、あと番人の部屋に入るときの感覚に。
テレポートで転移する感覚。
根っこが同じ現象を起こす魔法なのかもしれない。
夏海の説明曰く、テレポートは自分が把握している場所に瞬間移動で行く魔法で。
それは実際に行ったことのある場所以外に。
写真のような画像データで知った場所でも良いらしい。
ただそれは……
その画像の場所が自分の認識とズレていないことが前提条件とのこと。
ようは
「この写真は大日本銀行の秘密金庫の中だから」
と言われて誰かに渡された写真をもって
本当に大日本銀行の秘密金庫に行くためには
1つ、写真を持って来たその他人の言ったことに欠片も疑念を持っていないこと。
2つ、写真を持って来たその他人が、真実を語っていること。
この2つが必要になるそうだ。
なので、誰も全く知らない場所にいきなり転移することは、どうやっても出来ないみたいだ。
あと。
こっちの世界から、迷宮内に直接跳ぶこともできないらしい。
これは多分……
資格の無い人間を、強引に本来資格が要求される第3階層以降の階層に運び込んだり。
入室に関して定員がある空間……番人の部屋に定員6名を超えた人数を連れ込んだり。
そんな、迷宮内の意志に反しそうな行為をできないようにするための安全装置みたいなもんだと思う。
これをしておかないと……
大量の人間を引き連れて番人の部屋に直接飛び。
ネックの戦闘部分は戦闘班に任せ。
その他の人間は防御に徹し。
結果楽々ランク5クラス取得者を量産することも可能かもしれない。
その辺迷宮の方も抜かりないんだな。
迷宮は自分の意図から外れる行為……ズルを許さないんだ。
「今日も余裕持って遅刻知らず。始業までまだ30分あるよ」
俺と手を繋いでいる夏海はニコニコしている。
そして俺の手を引いて、歩き出す。
周囲が注目してる。
そりゃま、テレポートして登校して来るような生徒、夏海しかいないしな。
「なぁ」
一緒に手を繋いで歩きつつ俺は
「テレポートの疲労、大丈夫なのか?」
夏海曰く。
はじめて跳んだときは気分的に倒れそうな疲労を感じて、ちょっと横になったらしい。
テレポートはだいぶ疲労するみたいなんだ。
だけど彼女は俺に目を向けて
少し考えるそぶりを見せて
「うん。行き先が新規で跳ぶ場所のときはだいぶ疲労するね。それも慣れると少し楽になるけど。んで、行き慣れた場所になるともっと楽になるかな」
……夏海の話からすると、そこに跳ぶことのイメージがどれくらい掴めるかがポイントになるのかな。
瞬間移動はすごい能力だし。
疲労するのは分からなくもない。
……でも。
ここで頭を過るのは、あの男。
アイツは……四戸天将は。
テレポートで俺を殺しにやって来て、特に疲労している風には見えなかった。
それはそれくらいアイツに精神力があるってことなんだろうか……?
まあ、納得できないことはない。
アイツはクズだけど、実力だけは本物だしな。