第126話 気づき
「ブリザード!」
……夏海は焦りの表情を浮かべて激しく飛び回っている。
その中で、隙を見て魔法攻撃を繰り出しているけど……
夏海が発動させた氷雪の嵐は、ルビーガルーダを飲み込む位置にピンポイントで発生した。
けれども
やっぱり、効いてなかった。
ヤツは「ひょっとして今、俺に何かしましたか?」って様子で飛び続けている。
クソッ
夏海も焦りの色が濃い表情だ。
……さっきエネルギーバレットも撃ったんだけど、まともに命中しても大して効いてる様子が無かった。
多分顔面に当たったのに。
どうすりゃいいんだ?
スリープミストもおそらく効かないだろうし……
こうなったら
「夏海!」
夏海の注意を引くために、俺はそう敢えて名前で呼んだ。
夏海は一瞬俺に視線を向ける。
俺はそれに対して頷いて……
そこから
夏海は俺に向かって飛行して来る。
逃げて来る感じで
ルビーガルーダは夏海を接近戦で仕留める方向に頭のスイッチを入れているのか、そのまま追って来る。
――来た!
俺の意図は、夏海にルビーガルーダをおびき寄せて貰うこと。
夏海を追ってなんとか手の届く位置まで降りて来たルビーガルーダ。
まんまと俺の望み通りに来てくれた。
俺は跳躍する。
そこでルビーガルーダは俺に気づくが、行動が一瞬遅かった。
俺のニヒムによる斬撃は、ヤツが逃げ去る前にルビーガルーダの後ろ脚の1本を切断したんだ。
クエエエエエ!
悲鳴を上げるルビーガルーダ。
……仕留められなかったか。
でも、まともなダメージは与えた。
やっとだけど。
次はもっと深刻なダメージを……
そう思ったときだった。
クエエエエエエ!
ルビーガルーダの切断された後ろ足が。
ルビーガルーダが鳴き声を発した直後にその身体が輝いて。
みるみる再生していく。
……えっ?
血の気が引く。
こいつ、再生能力まであるのか……?
ここまで攻撃しにくい上に。
再生能力……?
詰みじゃないのか?
どうすればいいんだ……?
ベイルアウト。
逃亡。
退却。
その言葉が頭が過るけど……
そのときだ。
ふと、思い出した。
第5階層に来たばかりのときに
早々にキマイラに遭遇して、戦闘になったときの経験を。
あのとき。
キマイラは回復魔法を自分自身に使用して……
あっ
そっか
そういうことなのか!
その記憶から気づいた。
コイツがどういうからくりで、今の状態になっているのか。
俺は瞬時に叫んでいた。
「サクラ! エネミーに! 火炎防御を! 頼む!」
続けて
「夏海! 10万ボルトだ!」
……ルビーガルーダに俺の意図を読まれないために。
精一杯、暗号化した言い方を意識した。
分かりづら過ぎると、分かって貰えないし。
その匙加減。
そのせいで、色々他のことを忘れてしまったけどな。