第124話 ルビーガルーダ
運命の日がやって来た。
俺はサクラのために、サクラが持ってる弓と同じ弓を買って来た。
弓具店で売ってる弓を見てきて、彼女が使っている弓と感覚が一番近いものを買って来たんだ。
グラスカーボン製の高級品。
色は黒。
これだけでも8万円したけど、しょうがない。
言い出しっぺは俺たちだ。
俺は弓を選び、買い。
矢も用意して。
夏海は服を買って来ていた。
事前にサクラのサイズを測って、着替えを用意したんだな。
「ハイ、サクラさん」
そう言って、紙袋を差し出す。
彼女が何を買って来たのか分からない。
確かめて無いし。
……だって変態っぽいじゃないか。
彼女でも無い女性の着るものをチェックするなんて。
「オー、下着マデ用意してくれたデスか。ありがとうございマス霧生サン」
貰った紙袋の中身を確認して嬉しそうに礼を言うサクラ。
夏海はそれに頷いて
「今日だけのことだから、それを入り口付近に置いておきましょう」
今日だけのことだから、それを入り口近辺に置いておく。
1日くらいなら、新品の女性の服一式を紙袋に入れて放置してても、即座にパクられたりしない……だろ。
多分。
一旦、俺たちは迷宮の出入り口まで引き返し。
サクラはそっと外に出て、数分後戻って来た。
彼女はにこやかに言う。
「近くのエアコンの室外機の影に置いてキマシタ」
なるほど。
多分大丈夫だろ……
今から数時間以内に、ひょっとしたら必要になるかもしれない。
それだけのものだから。
その間だけ、通りすがりの誰かにパクられなければいいんだ。
だからきっと大丈夫だ。
そしてそこから。
迅速に第7階層に移動して。
まっすぐに、番人の部屋に転移するための門の前まで来た。
時間にして2時間くらい掛かったかもしれない。
目の前に、迷宮探索者が夢を賭けて潜る門がある。
その門の入り口の、空間の揺らめきを見つめつつ
「さあ、行きましょう。絶対に勝って、ランク5に」
……負けると予想している精神じゃだめだ。
そりゃ、敵わないと判断したら逃げるけど。
口だけでも、そう言っておかないと。
鼓舞するつもりでそう言って、俺は門を潜った。
一瞬の眩暈の後……
転移した先は
それは、どこかの岩山の頂上だった。
俺が転移した場所の10メートルくらい先に、石の直方体……生贄の祭壇みたいなものがあって。
その上に、それが居た。
鎮座していた。
「あれがそうなの?」
俺の後に転移して来た夏海が、驚きの声でそう呟く。
気持ちはわかる。
体長3メートルくらいの、化け物。
この番人は怪鳥って話だったけど……
鳥よりも、一番近いのは猫のような気がする。
オオヤマネコに、猛禽類のような力強い翼をつけて。
4つの手足の爪を、鳥っぽくした。
嘴が無くて、やたら鋭い牙を生やしてる。
そして目が飛び出しているような感じで、デメキンみたいになってた。
それがギョロギョロ動いてる。
……めっさ不気味だ。
クエエエエ!
ただ、鳴き声が鳥っぽく。
ルビーの名の通り、身体を覆った羽毛の色は赤くて、宝石みたいにキラキラ輝いていた。
……これが、ルビーガルーダという番人なのか。
俺たちが見ている前で。
ルビーガルーダが羽ばたき、宙に高く舞い上がった。
そして再度、鳴き声をあげ。
次の瞬間、その口から俺たちに火炎を吐き出して来た。