第123話 番人に挑む理由
何でルビーガルーダに挑みたいのか?
それは……
ランク5に、早急にならないといけなくなったからだ。
夏海の言った脅し文句はテレポートの魔法が使えないと成立しない。
もし牝豚が、何かの偶然で夏海がランク4魔術師でしかないことを知ったら、また何かしてくるかもしれないじゃないか。
だからすぐにでも、ランク5になる必要がある。
そこは分かる。
……けど
「俺、絶対に勝てるという自信を持てていないけど……」
俺たちはこれまで、番人を3体倒して来たけど……
どの戦いも、勝てると信じられるだけの自信を身に着けてから挑んだんだ。
勿論それは実際に戦ってないわけだから、根拠は弱い、思い込みみたいな自信だけど……
ルビーガルーダに関しては、まだそれすら持てていない。
7階層ではまだ苦しいと思える相手は存在する。
吹雪のブレスを吐いてくるアイスゴーレムだとか。
視線で猛毒を撒き散らす大トカゲのバジリスクだとか。
そんなのが余裕で倒せないのに、絶対勝てる自信なんて持てないよ。
だけど
「そんなのは、いざとなったらベイルアウトで逃げれば良いでしょ」
そう返して来る夏海の目は本気だ。
ベイルアウト……
迷宮探索者としての財産を全部放棄する代わりに、発動した時点で確実に逃げられる緊急脱出魔法……
いくらルビーガルーダが強くても、その決断をするだけの時間も与えられずに成すすべもなく全滅なんてあり得ないだろ。
そこまで強かったら、多分第8階層には誰もまず行けないんじゃないか?
あくまで多分だけど。
……だから
「分かった。榎本さんたちに相談してみよう」
ここは、大きく出るところかもしれない。
「ルビーガルーダにベイルアウトを視野に入れて挑みたい?」
そしてその次の週末。
迷宮内部で榎本さんと合流し。
サクラを拾った後。
第7階層に到達時に話を切り出した。
一か八か、挑んでみませんか、と。
榎本さんは俺の言葉に、口に手のひらを当てて考えながら
「……確実な勝算でもどこかで拾ったわけ?」
そう、探るような視線で訊いてくる。
俺はその言葉に首を左右に振った。
「いえ、そういうわけでは」
「……ベイルアウトを軽く考えてないわよね?」
榎本さんの目は真剣で
「裸で放り出されるのが恥ずかしいだけじゃ無いのよ? 大切な装備も全部無くすってことなのよ?」
「分かってます」
……俺の言葉に、榎本さんは顔を顰めて
「こう言ってはなんだけど」
そう前置きし、厳しい表情で
「……アタシのファウストは必死で貯めた300万円の貯金で買ったのよ。吉常くん、それを軽いなんて言わないわよね?」
それだって分かってるよ。
300万円は重い。
それは金額の問題じゃない。
榎本さんが300万円貯めるのに、どれだけ頑張ったか。
絶対に楽な事じゃ無いんだ。
300万円って金額には、そんな想いが詰まっているんだ。
それを簡単に「昔より収入上がってるんですし、また貯めれば良いのでは」なんて言えるかよ。
それぐらい理解してる。
だから……
「榎本さん、最初に使ってた普通の迷宮産の槍は?」
「別にまだあるわ。売り払ってない」
俺の問いに即答する榎本さん。
「じゃあ、ルビーガルーダ戦はそっちを使ってください」
ファウストの特殊能力は「変形」
槍と斧に、自在に切り替わるのが売りなんだ。
だったらただの槍でも、それは斧として使えなくなるだけで。
それほど致命的なランクダウンじゃない。
「サクラさんも、迷宮産の弓は置いて来てくれ。俺が普通の弓を用意するから」
……俺以外はベイルアウトで失われても問題ない装備で挑む。
これなら多分問題無いだろ。
そういう意志を込めて、俺は榎本さんとサクラを見た。
2人は……
「分かったわ。そこまで言うならやりましょう」
「ベイルアウト、頑張りマス」
最終的に合意してくれる。
こうして……
次の週末に、俺たちはルビーガルーダに挑むことになったんだ。