第12話 霧生の本格参戦
翌朝、約束通り10時少し前に、政府直営店「アドベンチャラーズ」の前で待つ。
昨夜、寝る前に霧生にメールを送っといたけど、ちゃんと来るかちょっと不安だった。
霧生が時間をキッチリ守る奴かどうかは全然知らないわけだし。
そして店の看板の下で腕を組んで待ってると、10分前に元気な声が響いた。
「おまたせー!」
視線を向けると、霧生が手を振って走って来てる。
昨日とは打って変わって、ジーンズに黒いTシャツ、リュックを背負ったカジュアルな格好だ。
足元は昨日と同じ運動靴だけど。
「お前、ジャージはどうしたの?」
俺は軽く訊ねる。
霧生は「んー」と首を傾げて、笑顔で答える。
「昨日ので動きやすかったけど、ジャージである必要はないかなって判断したの。動きやすければいいよね?」
「まあ、問題はないさね」
俺は霧生の格好をチラッと見て頷く。
確かに、動きやすそうな格好だ。
霧生が、俺のミリタリー風の装備──カーキ色のジャケットとタフなブーツを指差して、興味津々に訊いてくる。
「ね、理想はそういう服装なのかな? 迷宮探索者って」
「まあ、戦うことになるわけだし。大抵の探索者はこんな感じだよ」
俺は肩をすくめて答える。
動きやすさと防御力を両立させるなら、この辺が無難だよ。
「全部揃えるといくらくらい?」
当然の質問。
「……4万くらいかなぁ?」
俺は記憶を掘り返し、自信なさげに答える。
頻繁に買い替えるもんでもないし、ぶっちゃけ俺にそんな財力もない。
霧生は「へえ、意外と安い!」と感心した顔で頷いてる。
アドベンチャラーズのカウンターで、霧生が会員登録を済ませる。
俺は慣れた手つきでスマホと財布を金属製の籠に放り込み、預ける。
霧生も俺の真似をして、財布をそっと籠に入れるけど、職員さんが行った後、ちょっと不思議そうな顔で訊いてきた。
「財布預けるのって、カードが迷宮で壊れるからかな? ICチップとか入ってるし」
「違う違う」
俺は手を振ってしれっと答える。
「……現金目当てで強盗殺人される危険性を、少しでも減らすためだよ。ここ、犯罪が起きても捜査できないんだ。分かるだろ?」
霧生の目が一瞬丸くなる。
で。
「ああ、なるほどー」
そう、大きく頷くけど、声がちょっと震えてた。
「モンスターがウロウロしてる場所で、悠長に現場検証なんてできないもんね……」
「そういうことです」
まぁ、認知されている強盗の発生はそう多くないけどね。
それがこの「事前に貴重品を店に預けるシステム」のせいなのかどうかは知らない。
霧生、ちょっとビビってる。
まあ、気持ちは分かる。
モンスターよりも、同じ人間の悪意の方が怖いもんな。
店に預けていた長剣を受け取って、俺はそれを腰に提げ
「じゃあ、行こう」
「うん!」
気合の籠った霧生の返事を聞きつつ、今日の予定を考える。
今日は霧生に魔術師というクラスに慣れて貰うのが主な目的だ。