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第116話 俺が迷宮探索者を目指した本当の理由

 なんでそのまま迷宮探索者を目指したのか、か。


 ……冷静に考えると確かにな。

 戦士の強靭な身体能力があるなら、他の肉体労働に特化した方がより早く独立できたかもしれないよな。


 土方の下働きが余裕なんだし。


 それこそマグロ漁船に乗ったり、自転車配達業に身を投じれば神人材って言って貰えたかもしれない。


 それなのに、迷宮探索者?

 そっちはモンスターに殺される可能性があるのに?


 何で?


 俺はずっと、プロの迷宮探索者を目指してた。

 全く迷わずに。


 どうしてか……?


 それは……


「うん、それは……」


「待って」


 言い出そうとしたとき。

 夏海が静止を掛けて来た。


 彼女はすまなさそうに


「言いたくないなら無理に言わなくていいよ。……私から訊いててなんだけど。ゴメンネ」


 ……顔に出てたのかな。

 夏海は空気を読み取るの得意な女の子だし。


 ずっとそうだよな。


 俺は首を振り、そして


「……多分見栄だよ。見栄を張りたかったんだ」


 正直に口にした。

 別にマグロ漁船に乗ることや、自転車配達業を馬鹿にしてるわけじゃないけど。


 他人に


 あんな毒親の子に生まれたから、マグロ漁船や自転車配達業以外の道が無かったのかな?


 ……そんな風に思われるのが嫌だったんだ。

 こいつは、親のせいで本来は選びたくない道を選んでいるんだ、って。


 哀れみを向けられたく無かったんだ。


 迷宮探索者も8割がバイトという厳しい世界だけど。

 トップに立てば年収が億に到達するセレブになれる。

 もしそこまで行ければ、誰にも哀れまれたりしない。

 絶対に。


 俺はやむなくその道を選んだのではなく、大きな夢を追っている。

 自発的に望んでその道を選んだんだ。


 そう、他人に思われたかったんだ。


「……そっか」


 俺の言葉を訊いて、夏海は少し申し訳なさそうな顔をする。

 思い付きで嫌なことを訊いたと思ったのか。


 俺は


「でも、今は違うぞ? 俺、夏海と一緒に最下層に行ってみたいと本気で思ってるから」


 少し慌てて、今の本心を口にした。

 これは本気マジだ。


 夏海の夢を叶えてあげたいし、俺自身も興味ある。

 最下層に何があるのか?

 そのことに。


 俺の言葉に


「ありがとう。私、嬉しい」


 夏海は顔を赤らめて俯く。

 そして


「そろそろプレゼントの交換をしよ!」


 空気を変えるためか。

 少し大きな声で彼女はそう言った。




 夏海の提案に、湿っぽくなった空気が吹き飛ぶ。

 そして心臓がドクンと跳ねる。


 プレゼント。


 そう、俺が苦労して選んだあのプレゼント。


 夏海のスリーサイズを<絶対感覚>で目算して、通販サイトで吟味して選んだ黒のワンピース水着。

 フリルが胸元を隠すデザインで、ベイルアウトの緊急避難用にピッタリだと思ったんだけど……


 気に入って貰えるだろうか……?


 互いにプレゼントの箱と、手提げ紙袋を交換した。

 箱の方は俺のプレゼントの非常用の水着。

 紙袋は夏海のプレゼントだ。


「じゃ、俺から先にいいか?」


 俺の言葉に夏海が頷いたので、紙袋を開ける。

 そこには……


 黒目の赤……ワインレッドっていうのかな?

 そんな毛糸で編んだマフラーだった。


 おお……


「ありがとう。大事にするよ」


 柄が入っていないから、多分手編みなんだろうなと思いつつ。

 まあ、違っても別に良いけど。


 夏海が俺のために用意してくれたのが大事なんだ。


「どういたしまして。夜なべして編んだかいがあったよ」


 ……俺の予想は当たっていたらしい。

 夏海の言葉に俺は素直に頭を下げた。


 そして


「私はどうかな?」


 夏海がワクワクしつつ箱を開封していく。


 一応通販で届いた箱に、他から包装紙を買って来て。

 自分で包装をしてみたんだ。


 彼女はその包装を丁寧に剥がして……


 中身を取り出した。


 中身は黒いワンピース水着。

 フリルのデザインが、清楚な夏海に似合うと思った逸品。


「え、これ……水着?」


 夏海の声が一瞬硬くなる。


 俺は


「うん。ベイルアウト用の水着。必要だろ……?」


 自分のセンスに間違いがあったのかと不安になった。

 ワンピース水着って言っても色々あって、俺は彼女が着用しても煽情的にならないようなものを選んだんだけど……

 ダサかったんだろうか?


 すると彼女は


「うん、ありがとう。……良くサイズ分かったね?」


 なんというか、驚きというか……気抜けというか……

 そんな声でそう言って来たんだ。


 俺はその言葉に頷いて


「目算で弾き出した。自信はあるんだ」


 自分の苦労を言葉にした。

 相当アタマを使ったからな。

 メチャクチャ集中し、考え抜いた。


 するとだ


「じゃ、着てみる」


 えっ?


 ……夏海は、全く予想もしなかったことを言って来たんだ。

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